12
結局、私は街に戻るまでモンスターを8体も倒すことになった。
ファイヤーボールを先制攻撃するだけで、あとは茜とラピスが倒してくれるので今回は痛いことも危ないこともなかった。とてもありがたい。二人には感謝してもしきれないよ。
1体でいるモンスターを死角から攻撃するだけのはずなのに、外すことも何度かあって確かに練習の必要性を感じさせられた戦いだった。二人はそれ以上の敵を悠々と倒していたのに……。
特に黒いオオカミのモンスター、ブラックウルフはかなり素早くて、こっちに気付かれると私では当てることが出来なかった。
鋭いキバを剥き出しにして、こっちに向かってくるオオカミの姿を前にして冷静に狙いをつけられるほど私は技術もなければ、肝もすわってない。あまりにゲームの才能がないみたいで、ちょっと落ち込みそうになった。
茜はもっともっと私に戦わせるつもりだったみたいだけど、精神的疲労が大きすぎて8体で許してもらった。
でも、そのおかげでプレイヤーレベルは4になりました。
私としては初の戦闘で充分だと思うんだけどなあ。
「じゃあ、お姉ちゃん頑張ってね」
茜は生産ギルドまで送ってくれた。
「うん、ありがとう。出来るだけ早く作れるようがんばるよ」
「品質Aが作れるようになったら教えてね?」
「A~? それは先が遠そうな話だねえ」
「お姉ちゃんならそのうち出来るようになりそうだよ」
「まあ、あまり期待しないで気長に待っていてね」
あまり期待されても困る。まだ1度しか作ったことがないのだから、急かされても出来るかどうか分からない。
どれだけ試行錯誤しなきゃいけないのか……。もしかしたら私も飽きちゃう作業かもしれないしねえ。
「あはは、まあこれでも食べて頑張ってよ」
茜はそう言うと、収納リングから食べ物を取り出した。
───────────────
・カスタードクレープ C
カスタードとベリーが入ったクレープ。ずっしりとした重量感がある
満腹度:中
───────────────
「クレープ?」
「戦闘するとお腹の減りもはやいからね。何か食べておかないと」
「そういえば、お腹すいた感じするかも」
「お腹すいたと感じるのは結構満腹度が下がっている証拠だよ」
さっきからHPのバーの横にフォークとナイフの絵が出ているのを何かと思っていたけど、満腹度が下がっているという注意だったんだ。
戦いでいっぱいいっぱいで全然分からなかったよ。
もしかして痛覚軽減のせいで空腹感も感じにくいのかな?
「お姉ちゃんまだ平気そうだけど、お腹すいたまま放置すると動きづらくなって、HPが減ってくるからね。これもついでにあげるよ」
──────────────────
・ハニートースト C
はちみつがたっぷりかかった食パン
満腹度:大
─────────────────
皿にのった四角い固まりがドンっと出てくる
「あ、ありがとう」
見事に大きくて甘そうなものばかりだ。見てるだけで胸焼けしそう。
「ここならいくら食べても太らないからね。何か食べればいいから、栄養バランスも考えなくていいし。だから、ついつい食事は甘いものばかり買いだめしちゃうんだよね~」
実に茜らしい理由に思わず笑ってしまう。
「一応甘いものはこの世界では高級品扱いらしいけど、満腹度も高いから便利なんだよ。甘いもののお店はいくつかあるから見て回ったら面白いよ」
「うん、あとで見てみるね」
「お店のは単純な味付けであまーい感じが多いけどね。その点、プレイヤーさんメイドのものはさすがだよ。ちなみにこれが今私のお気に入り」
───────────────
・ナッツクッキー A
さまざまなナッツを練り込み、はちみつを使っているので自然な甘さのクッキー
満腹度:小
───────────────
確かに見た目も綺麗に型抜きされていておいしそう。
またまた品質Aの食べ物だ。
お店を出しているプレイヤーさんってみんなすごいんだなあ。
「ありがとう。これ食べて頑張ってみるよ」
「うん、じゃあね。ラピスくんもまたね」
茜はラピスの頭を一撫ですると、噴水の方へ歩いていった。茜の後ろ姿を見送ると生産ギルドへ入った。
私は初めての生産スペースレンタルなので、とりあえず大部屋を2時間借りることにした。大部屋は1時間300Gらしい。これでどれだけ出来るようになるのか……
大部屋にはたくさんのブースがあり、結構な人数が作業をしているようだった。ブースの中は個室よりもこじんまりとしていて、大きめのテーブルとイス、水道やコンロがあるくらいである。部屋の奥には大きな炉があり、【鍛冶】持ちらしき人たちが剣を鍛えているのが見えた。
衝立で軽く区切られているだけなので、部屋に入った瞬間匂いがすごい。ポーションのような草の匂いもすれば、どこかで肉を焼く匂いもする。また、皮の匂いもすれば金属独特の匂いも漂っている。
なんだか落ち着かない。次からは個室にしようかな?
私が借りたブースにつくと、まずは茜からもらったもので腹ごしらえをする。クッキーを半分にすると、ラピスに片方を渡した。
「美味しいね」
ラピスも口をモゴモゴしながら頷く。
ナッツの香ばしい匂いもしっかりとしている上に、外はサクサクで中は少ししっとりとしていて食感もすごい。
こんなもの作れるなら、やっぱり自分でも作ってみたくなるね。
【料理】欲しいなあ。
私はメニューからスキルのところを開いてみた。
───────────────
スキルポイント:4
【調薬 Lv1】【採取 Lv4】【鑑定 Lv4】【ダッシュ Lv2】【火魔法3】
────────────────
うーん、やっぱりスキルポイントまだあまり貯まってないなあ。
スキルポイントはプレイヤーレベルが1上がるごとに1ポイント貰えるのと、スキルレベルが5上がるごとに1ポイント貰えるらしい。
【料理】はスキルポイントが5必要らしいから、あと少しでとれるみたい。
とりあえず今はCのポーションを作れるようになるのが先決だからいっか。
クレープも食べようかと思い、ラピスに勧めてみるが、ラピスは首を横に振った。初めての食べ物拒否にちょっとショックを受ける。
ほっぺを膨らませてモゴモゴと食べているときのラピスの笑顔が気に入っていたのに……
胸焼けしそうなクレープを一人で完食したが、思ったよりも簡単にペロリと食べてしまえた。甘かったが胸焼けなど全然感じなかったのはいいことなのかな?
「よし、じゃあ始めようか?」
私は調薬セットと品質Cの薬草を次々と並べた。
実は品質Cのポーションを作るヒントは攻略サイトで見ていた。そこに書かれていたことには最初のすりつぶしと最後のろ過作業がポイントらしい。具体的にはすりつぶしは20回くらいとろ過を2回するとCになるというのだ。ただ最初のすりつぶしに関して個人差があるらしく、やりながら最適な回数を見つける必要があると書かれていた。
私はとりあえず書かれていたとおりにすりつぶしを20回して、水を入れてから加熱して、2回濾してみた。
しかし、出来たのはDのポーション。
「うーん? そんなすぐにうまくいかないか……」
攻略サイトを見てすぐに出来るようなものなら、茜も私に頼むわけないもんね。
とりあえず最適なすりつぶし回数というのを見つけないといけないんだよね?
「よし! 頑張ろうか?」
ラピスも乳鉢を押さえてくれたり、器具を洗ってくれたり積極的にお手伝いをしてくれている。
そのおかげで、段取りよく作業を進めるってことができる。だけど、出来上がるのはD、D、Dばかり……。
もしかしてろ過を3回にしたらちょっとはよくなる?
試してみるが、まさかのE……ろ過のし過ぎはよくないのか……。
ろ過は2回で作業を続けるが出来上がるのはDばかり。D、D、Dが続いてへこみそうになる。
品質を上げるには材料も関係あるってキキさん言っていたよね?
私は品質Bの薬草でポーションを作ってみた。すると出来上がったのは品質C!
「出来た~!」
出来上がったポーションを思わず掲げる。
「ラピス! 見て見て、Cのポーションだよ」
ラピスも嬉しそうに万歳している。
良かった。やり方は間違っていないよう。
でもBの薬草は13個しか採取出来ていない。この方法で作るなら、また採取に行かないといけない。
「うーん、やっぱり普通の品質より良い薬草を普通のポーションにするってもったいないよね?」
「?」
ラピスは首を傾げているが、私はCの薬草からCのポーションを作れるようにならないと納得がいかない。
「ラピス、まだまだやるよ」
私は再びCの薬草をすりつぶす。
出来上がるポーションはD、D、D……C!
「やっと出来た!」
ここまでで作業時間は2時間近くたっていた。私は慌ててもう2時間の延長届けを出す。明日は土曜日だから多少夜更かししても大丈夫のはず。
「よし、今の感じだよね。忘れないうちにやらないと」
急いで新たな薬草をすりつぶし、ポーションを作るが出来上がったのはD……。やっぱりヘコみそう……。
でもその後続けてみると、C、D、D、C、C、D、C……徐々にCが作れるようになってきた。
C、C、C、C……
だんだんとCが作れるすりつぶし加減が分かるようになってきた。
よし、この調子で続ければ20個出来上がるかな?
すりつぶしていると、一瞬鈍く光る瞬間があることに気付いた。
「? 見間違え?」
何度か試してみると、そんな風に見えることがあったので見間違えのわけがない。よくよく見ていないと分からないくらいの鈍い
光だが、確かに薬草が光っている瞬間がある。
私はその瞬間にあわせてすりつぶしを止めてみた。それに水をいれて加熱し、2回ろ過してみると……
──────────────
・ポーション B
HPを20回復させる
──────────────
「Bが出来た……」
まさか今日のうちにBが出来るとは思わなかった。やっぱりあの光る瞬間がポイントなのかも。
「よし、次も光る瞬間を狙って……」
次の薬草を手に取ると、ラピスに腕をツンツンとされた。
「ん? どうしたの?」
ラピスはテーブルの上を指差して首を振った。
「テーブルがなにか? ……あ!」
そのテーブルにはあらかじめ空のポーション瓶を全部置いておいたはずだった。しかし、今は何も置かれていない。
「もう全部使っちゃったんだね」
ラピスはコクンと頷いた。
今回出来上がったのは
ポーション B × 1
ポーション C × 13
ポーション D × 25
ポーション E × 1
まだまだクエストクリアには足りないみたい。