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1 1 初採取

東の門を抜けると至るところでモンスターと戦っている冒険者たちがいた。訓練所で見たようなスライムのほかには、大きなウサギや黒いオオカミがいるようだった。はじまりの街の近くだからか、一人で戦っている人が多く見られる。


「この子がお姉ちゃんの精霊なの?」


茜の知っている採取ポイントに向けて歩いていると、茜が私の左肩を指差した。


「うん、ラピスって名前なの」


私はラピスは手のひらの上にのせた。ラピスは大きく腕をふると、ペコリと頭に下げた。


「可愛いね。男の子の妖精さんタイプだ~」


茜はニコニコとラピスの頬っぺたをツンツンとしている。


「茜の精霊は?」


茜の近くにそれらしい存在はいない。指輪から召喚していないのかな?


「私のはあの子」


茜は上を指差した。


「ん?」


つられて上を見るが、特に精霊らしきものはいない。鳥が空を悠々と飛んでいるくらいで、雲1つない青空が広がっている。


「シロ!」


茜は空に向かって呼び掛けると、腕を差し出した。次の瞬間、その腕に1匹の鳥がとまった。


「この子が私の精霊のシロ! 可愛いでしょ♪」


シロは鷹に似た鋭い嘴をもっているが、体は鷹よりもふっくらとしておりモフモフすると気持ちよさそうな感じをしている。だけど目付きは鋭く、可愛いというよりかっこいい鳥に見える。


「鳥の精霊なんだね。さっきからずっと上を飛んでいたの?」


「うん、シロは【索敵】を持っているからね。いつも上を飛んで警戒してくれているの」


なるほど、のんびり歩いているように見えて茜は警戒してくれていたんだね。助かります。


「触ってもいい?」


「うん、大丈夫だよ」


私は羽の上からそっと触った。見た目どおりフワッとしている。思いきって羽の中に手をいれて、ワシャワシャとしてみる。

シロはびっくりしたようで、大きく羽を広げた。そこを狙って胴体に頬擦りすると、驚くほど柔らかくフワフワだった。


「すごーい。癒される~」


次の瞬間、シロは身をよじって空へと舞い上がってしまった。


「ああっ……」


「あはは、お姉ちゃんシロに逃げられちゃったね。まあ、一緒にいればそのうち慣れてまた触らせてくれると思うよ」


「私のモフモフが~」


「お姉ちゃん、モフモフしたかったんだもんね。また、後で機会があるよ」


「うん、期待してる」


恨めしそうに空を見ていると、ラピスがペチペチと頭を叩いてきた。なんだか、物言いたげな不満そうな顔をしている。もしかして、シロにヤキモチ焼いてる?


「ごめん、ごめん。ラピスがもちろん一番可愛いよ。ラピスの髪もモフモフだもんね~」


小さな頭をそっと撫でてやる。撫でてもあまり機嫌は変わらず、拗ねたような顔をしている。


「ふふふ。妖精型だと表情豊かで可愛いね。お姉ちゃんゲーム始めたばかりなのに、もうラピスくんに好かれているみたいじゃん。すごいね~」


好かれているのかな? まあ、嫌われてはないと思うけど……どちらかというとなつかれてる?

念のため、ラピスのステータスを確認すると


─────────────────

《精霊》

ラピス Lv1 親密度35

【大剣 Lv1】【筋力強化 Lv1】【人間化 Lv1】

─────────────────


ええっ!?

いつの間に親密度が5から35まで上がっている。他のところは何も変わってないのに、どうして親密度だけがこんなに上がっているのだろう?

念のため自分のステータスを確認するが、何も変わってない。


「なんか親密度だけが一気に上がってるんだけど……」


「何か変わったことしなかった?」


「チュートリアルクエストをこなしていただけだから、特に変わったことはしてないと思うけど?」


「じゃあ、相性が特にいいとかかな? 相性がぐんと上がることはたまにあるらしいよ」


「そうなんだ」


相性がいいなら嬉しいなあ。ラピスの頭を撫でたり、頬っぺをツンツンしているうちにラピスの機嫌も直ってきたようだし。



「あ、あそこ! あのあたりで、リリーナがいつも採取していたんだけど。どうかな? 薬草類がたくさん採れるって言ってたけど」


茜が林近くあたりを指差す。そのあたりには確かにキラキラとした光がたくさん見えている。

茜は【採取】は持っていないようで、どの草も同じように見えるなんて言っている。


「うん、良さそう。この辺りでしばらく採っているよ」


「じゃあ、見張っているから好きなだけどうぞー」


「あ、ラピスも手伝ってくれる?」


ラピスはコクンと頷くと大きくなった。


「わあ、ラピスくんって大きくもなれるんだね。大きくなっても小さ~い。可愛い~!」


茜がラピスをぎゅっと抱きしめる。ラピスは逃れようと腕を動かそうとするが、茜の方の力が強いのか、ジタバタするだけで逃げることは出来なかった。

ラピス、一応【筋力強化】あるのに……茜恐るべし!


私はとりあえず目についた薬草を摘んでいく。冒険者ギルドでさっき見たので、薬草の見分けはつく。摘んでみるとこの辺りには品質Cの薬草が多いようみたいだった。日当たりとかのせいかDやたまにBも混ざっている。

茜から解放されたラピスも私の真似をして、次々と摘んで1ヶ所に積み上げていく。だけどラピスには見分けがつかないみたいで、手当たり次第に目についた草や花を摘んでいく。1ヶ所に集められた草を見てみると、意外とただの雑草が少ない。薬草だけではなく、魔薬草や火炎草、解毒花など、明らかになにかの薬になりそうな草もたくさん混ざっている。他にもバジルやローズマリー、大葉など【料理】に使えそうな香草まであった。


「すごい」


それから私も手当たり次第に摘んでリングの中に収納していく。

気付くとどんどん林のなかに入り込んでいたようだった。周りでは結構な頻度で茜が戦闘している音がしている。この辺りは門の辺りから少し遠く入り込んだ場所にあるせいか、他の冒険者の姿も見えない。とてもいい採取ポイントみたいなのになあ。

ただその分モンスターの数も多いようだった。それでも茜の敵ではないようで、あっという間にやっつけている。

しばらくの間、おとなしく草を摘んでいたラピスがチラチラと戦闘している茜の様子をうかがうようになった。なんだかソワソワしている。


「ラピスも戦いたいの?」


ビクッとすると、ラピスは誤魔化すように慌てて草を摘むのに集中しようとする。その様子がイタズラの見つかった子供のようで可愛い。


「いいよ、茜のところに行ってきて。ラピスは戦うほうが得意なんだもんね。茜の言うことは聞くんだよ」


笑いながら言うと、ラピスは勢いよく顔をあげて思いっきり頷いた。手をパッパッと払うとあっという間に走っていってしまった。

やっぱりラピスは攻撃系の精霊みたいだ。今までと動きが全然違う。


「茜~、ラピスも一緒に戦うからよろしくね~!」


少し離れている茜に声をかけると、茜はこちらに振り返り剣を振り返してくれた。その後ろに迫っていた黒いオオカミのモンスターにシロが攻撃しようとした瞬間、駆け付けたラピスが思いっきり勢いをつけて大剣を頭から降りおろした。あっという間に一人で倒してしまった。薬草の採取はラピスにとってはストレスが溜まる作業だったのかもしれない。


「ラピスくん、強っ!」


茜もラピスの攻撃力には驚いたようだった。

私は安心して、再び薬草採取に集中した。これなら私はモンスターと戦うことはまったくしなくてよさそう。

【ダッシュ】も小まめにつかい、少しずつ場所を移動しながら私は摘めるだけ摘んでいった。



「そろそろ暗くなってきたし、戻ろうか?」


太陽の光がオレンジ色になってきたころ茜に声をかけられた。

いつの間にそんな時間になっていたようだ。

私は立ち上がると腰に手をあててグッとそらす。


「ううっ……」


【ダッシュ】での疲れはないが、しゃがんでの作業していると腰にくるこの疲れは感じるようだった。一体どんなシステムになっているのだろうか?


「だいぶ集まった?」


「うん、これだけあればたぶん足りると思う」


薬草は品質Cが62個、Dが45個、Eが21個、Bが13個も集まっている。

他の薬草類もかなりの量が集まっている。


「でも、かなりの量採っちゃったけど良かったのかな? ここの場所教えてくれた人もよく来るんだよね?」


「リリーナのこと? リリーナはもうはじまりの街付近では採取してないらしいから気にしなくていいよ。それに普通の薬草くらいなら2、3日で元に戻るらしいよ」


「そうなんだ。良かった」


マップに印をつけておこう。足りなかったら、また来ないと。

でも、モンスターが多いから茜いないと無理かな?


「ちなみに帰りはお姉ちゃんも戦う?」


「え?」


「お姉ちゃんもレベル上げした方がいいでしょ?」


「いや、今日は別にやらなくても……」


「帰るとき見つけた敵に適当に弱らせるから、トドメだけ差してくれればいいよ」


「いや、MPポーションがあまりないからまた今度でも……」


「お姉ちゃん、魔法で攻撃するんだね。じゃあ、最初の一撃の方が楽かな? かするだけでもいいから遠くから撃ってみて」


「いや、MPポーション2本しか持ってないから……」


「大丈夫! レベルが上がればHPもMPも全快するんだよ。お姉ちゃんまだレベル1でしょ? しばらくは使わずにいけるよ」


茜がいい笑顔で説明してくれる。


「いや、ラピスが倒していたせいか、さっきレベル2にはなっているよ」


さっきの採取中、音が鳴って左上のところのレベル表示が2になったんだよね。自分で戦わなくても精霊が戦うことでプレイヤーレベルが上がることが分かってちょっと嬉しかった。


「レベル2じゃ大して変わらないよ。お姉ちゃん、放っておくと戦わないでしょ?」


「うっ」


妹には戦う気がないのが、しっかりとバレているよう。


「今からやっておかないと、あとから困ることになるよ。敵が弱いうちに慣れておこう。私がいるから危なくなることはないはずだし」


今日は茜がいるから戦わなくていいと思ったのに……。

避けては通れないみたい……涙














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