1 はじまり
なろうでは初めての投稿作品です。
操作には不慣れですが、よろしくお願いいたします。
「お姉ちゃん、一緒にゲームしよう!」
リビングで雑誌を読んでいた私に、自分の部屋から出てきた妹の茜は突然そう言ってきた。
「ゲーム? いいけど、なんの?」
「もちろんSpirit Fantasy Onlineだよ!」
Spirit Fantasy Online(通称:SFO)といえば先月くらいに発売されたVRMMOゲームである。今までのVRゲームとは比べ物にならないくらいのグラフィックと自由度らしく、発売前から話題になり発売日の様子はニュースにもなっていた。
ゲームが大好きな茜は発売日に学校を休んでまで手にいれており、今一番ハマっているゲームなのは知っていたが、そんなこと言われるとは思っていなかった。
ゲームしようとはてっきり今一緒にカードゲームなり、一昔前のテレビゲームなりの何らかをしよういう意味だと思っていたのに。
「それってVRのゲームだよね? 一緒には出来ないよ。ゲーム機もソフトも1つしかないんだから」
一昔前のテレビゲームならコントローラーだけ買えば一緒にゲームは出来る。もしコントローラーが1つしかなくてもテレビ画面は見えるから交代しながらやれば一緒にゲームという意味はわかる。
だけどVRゲームは無理である。VRゲームはそばで見ていてもただヘッドギアを被って寝ている人である。どんなプレイをしているのか外から見るためにはまた特殊な機器やモニターを繋がないといけないらしい。
「だからもう1つ買うの!」
「え?」
あまりの妹の発言に一瞬止まってしまう。いくらなんでも発想がぶっ飛んでいる。
「いくらなんでも無理だよ。」
私は呆れてしまっていた。
VRゲーム機本体はもちろんいい値段するし、第一ソフトがない。Spirit Fantasy Onlineは即日完売しており、転売サイトではかなりの値段になっている。そんなすぐにもうひとつとかいう品物ではない。
「無理じゃないよ!」
「茜……いくらなんでも無茶言わないでよ。あのゲーム今手に入らないので有名じゃん」
「うん、今は無理だけど、追加発売の日が発表されたの」
「追加発売?」
「かなり話題だからね。第2陣がいつになるかみんな噂してたんだけど、思ったよりも早く発表されたみたい。さっきログインしたら、みんな大騒ぎしていたの」
なるほど。それを買って一緒にやろうということらしい。
「来週から予約受付開始だから、今度の土日に帰ってくるおとうさんにおねだりすれば間に合うはずだよ」
「おねだりって……」
「大丈夫。お姉ちゃん滅多にゲーム買ってなんて言わないから絶対オッケーしてくれるよ」
茜は自信満々に言い切っている。
確かにうちのおとうさんは単身赴任のせいか、私たち娘には結構甘い。茜はそれにつけこんで、しょっちゅうソフトを買ってもらっている。さすがに帰ってくるたびだと怒られたらしいが。
「うーん、買ってくれるかもしれないけど私そんなにゲームしないからなあ。買ってもらっても無駄になるかもしれないし……」
「大丈夫。絶対お姉ちゃんもハマるって!」
「え~、あれって敵と戦わないといけないんでしょ? 前みたいに痛くて怖いのは嫌だしなあ」
VRゲーム機が発売した当初、茜が買った格ゲーをさせてもらったことがある。だけどあれは私には絶対に向いていなかった。システム補助があるとはいえ持ったこともない武器で攻撃するのは大変だし、当たると痛いし、なんだかよく分からないまま必死に一試合終えると速攻でログアウトするはめになった。あれ以来怖くてVRゲームはやってない。
「大丈夫だよ。SFOはVR初心者にも優しいアシストモードあるし、痛覚軽減設定は優秀で痛みはかなりカットできるんだよ。グラフィックもかなりリアルだから、街にいるだけでも絶対楽しめるんだから」
グラフィックの作り込みがすごいのはテレビの特集を見ていたので知っている。茜もゲームを始めたころは毎日「現実みたいなの。というかそれ以上にキレイ!」とはしゃいでいたのを覚えている。
「うーん、VRゲーム機買うなら私には"もふもふ天国"のほうが楽しめるんじゃないかと思ってるんだけど」
"もふもふ天国"はペット育成ゲームだ。現実ではペットを買えない人向けに作られたソフトらしいが、かなり触り心地がリアルらしくてまったりゲームしたい人たちにうけているらしい。私はテレビゲームでもシュミレーションゲームのほうが好きだった。
格ゲーやRPGなどの戦うものは苦手なんだよね。
「もふもふ天国もいいけど、こっちにしようよ。もふもふしたいならSFOでもできるよ。動物型の精霊ならもふもふし放題だし、もしお姉ちゃんが動物型じゃなかったら私の精霊貸し出すから~」
「精霊?」
「そうそう精霊。SFOといえば精霊。オンリーワンな精霊が一番の特徴なんだから」
確かCMでもそんなことを言ってた。「あなただけの精霊と共に成長し、仲間たちと旅に出よう」ってキャッチコピーだった気がする。可愛い妖精や動物のキャラクターが成長する姿が映っていたのは気になっていた。そういう意味ではもしかして育成ゲームの一種なのかな?
「CMで見た精霊たちは確かに可愛いかったから気になるけど」
「ほら、お姉ちゃんも興味あったんだ! 自分だけの精霊は格別可愛いから。もふもふ天国よりオススメだよ~。」
茜はガンガン勧めてくる。なんかおかしい。
いつも自分がハマったゲームがあっても、そんなに押し付けてこないのに。
「そんなに一緒にやりたいものなの? どうしたの? 」
「え? うーん、お姉ちゃんにオススメというか……お願いというか……したいことがあって……」
急に茜は勢いがなくなり言いづらそうに目をそらす。
「まさか……、友達が出来ないとか?」
ゲームに関してはかなり社交的な茜に限ってそんなことがあるとは思えないが、もしかしたらゲーム内容は面白いが人間関係が難しいゲームなのかもしれない。
「それはないよ! ちゃんとゲーム内でフレンドたくさんつくったし」
茜はぶんぶんと首をふり、全力で否定する。
「じゃあ、パーティーを組んでくれる人がいないとか? でも私じゃゲーム始めてもあまり戦力にならないかもよ?」
「そうでもないから! ちゃんと固定のパーティーに入ってるから! 人間関係で困ってるわけじゃないから!」
「じゃあ、なんで?」
人間関係でなければ何の目的で私にこんなに勧めるのだろうか?
思わず首を傾げる。
茜は1つため息をつくと話し出した。
「あのね、【調薬】のスキルをとって欲しいの」
「【調薬】?」
「そう。ポーションとかの薬類をつくるスキルなの。」
「私がそのスキルをとって、ゲームを始めればいいの?」
「そう。本当なら自分で自由にスキルを選んでゲームするのが一番楽しいんだから、お願いするのはちょっと気が引けるけど……。でもお姉ちゃんに向いてると思って。」
「向いてる?」
「ポーションをただ作るくらいなら、【調薬】スキル持っている人なら作れるの。だけど、品質を良くしたり、新しいものを作るには試行錯誤がいるし、作業が細かいんだって。お姉ちゃん実験みたいな作業好きだし、この前もビーズアクセサリー作るのにかなりの時間細かい作業も楽しそうにしてたじゃん。」
「うーん、まあそういう嫌いじゃないからね」
「でしょ。だからぜひお姉ちゃんには【調薬】持ちになって私にいろいろ売ってほしいんだよね」
「その【調薬】って他の友達じゃとれないの?」
「とれないわけじゃないよ。実際フレンドの中にとった人もいるけど、ほとんどが続かないの」
「続かない?」
「ポーション作るために試行錯誤する時間があれば、モンスターを倒したいって人ばかりで……そうすると店売りのポーションとさほど品質が変わらないかそれ以下しか出来なくて、結局買ったほうがいいやってプレイヤーが今のところ多いの」
「それはまた、微妙なスキルなんだね」
「いや、スキル自体が変なわけじゃないんだよ。ただどうしても初回でSFOを買うプレイヤーはいかにもファンタジーって感じのことをしたいだけだと思うの。私もモンスター倒すほうがいいもん」
茜の主張に納得する。茜の性格上、ちまちました作業を長い時間続けられるとは思えない。特にゲームの中では暴れたい方だろうし。友達も似たようなものと。
「でも、そうしたら今までどおりお店で買ったら済むんじゃないの?」
「それが無制限に供給されるものじゃないらしくて、今でも個数制限かかったりしてギリギリなのに、第2陣がきたら絶対品薄が起きるって予測がたってるの。だから、お姉ちゃんにお願いしたくて」
ゲームに関しては抜かりのない茜らしいお願いだわ。品薄になるなら、あらかじめポーション調達のメドを立てておこうということらしい。私だけってことではなく、保険のために何人かに声かけてそうだよね。
「なるほどね。【調薬】だけでいいの?」
「うーん、他にもあまり人がとらないスキルはあるけど、差し迫って必要なのは【調薬】だけかな? 同じ生産職でも武器や防具をつくるスキルの人たちはそれなりにいるんだ。それにあまりスキル指定するとお姉ちゃんが面白くないと思うしね。面白くなければ、続けてもらえないでしょ」
「そっか」
茜の言うことは分かった。敵と戦うのではなく、ポーションをつくるゲームということなら出来そう。というかそれは楽しそうだよね。CMを見ていると戦うシーンが多かったし、茜もモンスターをどうやって倒したとか強かったとかしか言わないので、知らなかったけど。生産職という言い方からして他にもいろいろなものが作れるゲームみたい。
もの作りが出来て、精霊を育成できるのかな。
うん、決めた。
「私、SFOやってみようかな」