第一巻 『二話』 教会には悪魔が住む
数日ぶりの更新です。この回ぐらいから、戦闘シーンを増やそうと思います。次回の更新は金曜日ぐらいを予定してます! どうぞ、誤字・脱字に気をつけお読み下さい。
「ここは…教会?」
白い壁に屋根の先端には、十字架。
天窓には少なからずステンドガラスをつかってあった。
「私たちの生家であり、今は運営と管理をしている。」
古びた引き戸を開けると10人くらいが座れるスペースと
頑丈そうな祭壇が置いてあった。
「柚華と私は16年前、
教会の入口に捨てられていたらしい。
運良くここに住んでいたマストロ(先生)が私たちを育ててくれたんだ。
イタリア人だった彼は少ない蓄えで、学校に出してくれて、
しかも、伊語まで教えてもらったわ。
ただ、マストロは高齢で、私たちが中学にあがると同時に、体調は悪化。
その秋に彼は死に、
しかたなく、私たちは魔術師になった。」
フィネの言葉を疑った由貴だったが、
彼女の眼は真剣で、悲しそうな表情に、何も言えなかった。
紅の瞳をこれでもかと、見開いて由貴のことをじっと見つめる。
フィネは苦しんでいた。彼女にとっては信頼できるのは彼一人だった。
捨てられた時、彼女は毛布に包まれて置き去りされていたという。
クリスマスの日に
玄関先に立ったマストロは聖水を汲みに行くのが日課だった。
聖水をいれる小瓶をもち、
いつものように古い木の扉に手をかけた。
教会は町外れの郊外にある。
郊外の朝は寒い、冬となれば辺り一面が銀世界となり、神秘的な風景を生み出していた。
その中に毛布に包まれた彼女は、銀の髪に紅い眼で彼を見て微笑んだという。
「フィネ〜インスタントコーヒーでよかった?
それとも、軽く何か作る?」
柚華がトコトコ、奥の部屋から出てきた。
小さな体に似合わない大きなお盆に、三つのマグカップを載せてくる柚華は、童話の小人のようでとても愛くるしい。
中を覗いてみると、どうやら、教会の奥は生活スペースになってるらしく、小さなキッチンがあった。
「悪い、柚華。じゃあ、私が何か買って来よう。
ここには二人分の食料しかないしね。」
一瞬にして、表情を和らげるフィネ。
その姿はかわいらしい子犬をあやす飼い主のようだ
バックから、年相応の可愛らしい財布を出すと、寒い冬空の下を駆けていった。
「えっと....ユキくんは、ミルク入れるの」
「いや...ぼ、僕は別に……」
「そっか、わたしはこの苦さがどうも苦手でたくさんいれちゃうんだよね!」
フィネのいなくなり、柚華と二人きりになった訳だが、
思うように会話が続かない。
当然と言えば、当然だろう
半年前だって、
落ちた解答用紙自分を拾った時に、[ありがとう]と言われたくらいだし、普段挨拶をするわけでもない。
そんな、彼らが黙り込むのも無理はない。
「えっと....、
フィネからわたし達のこと、どこまで聞いたかなぁ〜
なんて‥…」
柚華が恥ずかしそうに、呟くと
「魔術師がどうとかって.....
ただの冗談だよね。」
由貴にしてみれば、ただの悪ふざけなのだろうと
いくら、キリスト教徒だろうが、神は崇めることはあっても、杖を振って呪文を唱えるわけでもない。
由貴は軽い気持ちで言ったつもりだったが.....
「魔術師は本当にいるんだよユキくん。
ただ、みんなはそれを隠しているだけ。
お祈りやおまじないなどの些細なことからはじまった魔術は現在も存在して、
真実を知る者のみが自由に扱うことができる。」
柚華の眼は真剣そのものだった。先程の小犬のような風貌からは想像できないほどの威圧感を感じる。
握りしめられたコップを机の上に置くと、上着に手をかけた。
「えっと....楠瀬?
いきなり、その、あの……
何をしているんだ!」
しかし、柚華はキッとこちらを睨むと顔を真っ赤にして、
「べ、別に変な意味じゃないんだからね。
向こう向いててよっ!!」
由貴がぐわっと、すごい勢いで体を背ける。
改めて見ると、教会にしては小綺麗に片付いていた。
木特有のさっぱりした香りが辺りを包んでいる。
多分、あの二人がこまめに掃除をしているのだろう。
壁掛けの額縁にさえ、ホコリひとつなかった。
できる限り自然なことを考えようとした由貴だったが、
後ろから聞こえる布擦れにドギマギしっぱなしだったの別の話。
「あの、えっと…もう大丈夫だよ。」
由貴が振り返ると柚華はタオルで体を隠して俯いてる。
何故か、ちょっぴり残念な作者。
「おい、自重しろ。
で、楠瀬さん……これはいったい。」
「わたしの背中に黒い斑点みたいなのわかる?」
「これかなぁ……?
硬い突起みたいなやつ.....」
「あぅ!!」
「あ、ゴメン....」
「別に気にしないで…。
ちょっと、びっくりしただけだから.....」
それにしても、彼女の皮膚はきめの細かいシルクのようだった。
ほくろ一つない背中に黒い斑点が浮き出ていた。
「まあいいです。
それではよく見ていて。
……リラッシャメント[解放]……」
柚華が体を強ばらせると黒い斑点が蠢く。
ただの斑点が模様になり、
模様が浮き出ると、薄い影のように立体化した。
「これが、わたしのエネルグーメン[悪魔憑き]。
[悪魔憑き]は先天的なものがほとんどで、
数十万人に一人の確率で発憑すると云われている。
マストロ[先生]が教えてくれたのは、伊語だけじゃなかった。
彼はわたしを見たときから、[悪魔憑き]としての才能に目をつけていたのだと思う。
一人の老い先短い老人として、孤高の魔術師として。」
粒子状になった影が、完全な形を成す。
見た目はお馴染みの蝙蝠羽だが、燃えているように揺らめき、
皮膚というよりも光の結晶といったほうが無難かもしれない。
「[先生]はわたしだけでなく、
フィネにも才能があると判断して、
自分の得意分野であるサロモーニコ・コロンナート[ソロモンの72柱]の魔術をマストロ[先生]はそれを彼女に伝授した。
アナタが斬られかけた黒刀は[アンドラス]で
30の軍団を指揮する大公爵。
フィネが得意とする魔術で、彼女が始めて使役した魔神。」
柚華はひと息つくと、
構成された[悪魔憑き]を分散させていく。
30秒もかからずにもとの黒い斑点にもどってしまった。
「ここからが少し話しづらいんだけど....!」
そう言うと彼女はいきなり、由貴にガバッと抱きついた。
布切れ一枚から直に伝わる体温。制服の上からではわからなかった、
起伏に富んだ肉体が由貴を包み込む。
「ゴメン....、
[悪魔憑き]の体は一人では生きられないの。
魔力は生成できても、生気だけは他の誰からか、補充しなくてはならない。
今日はいろいろ遭ったから殆ど尽きちゃったみたい.....。
しかも、異性のほうが吸収効率が良いっていうか、何というか……」
ヤバい、本気で全て吸い尽くす気だ。
だ、ダメだ……、体中の力が抜けていく。
離れなくちゃ.....
「う゛っ!!」
由貴は後頭部に衝撃がはしった。
どうやら、戻って来たフィネが夜食の詰まった買い物袋で殴ったようだ。
「おい!起きろ、変態。
いつまで柚華に、抱きついてるつもりだ。
それだけやられて意識を保てるならたいしたものだが」
フィネは由貴に頬ずりしている(ように見える)柚華を引き離して、
「敵はここに気付いたらしい。
由貴を連れてきて正解だったな。
奴らは敵と認識して、由貴を狙っている。
柚華?...まさかっ…」
尋常じゃなく慌てるフィネに、ふらふらして、まだ立てない由貴は、
「どうしたんだ楠瀬さん、具合でも悪いのか?」
「いや、意識がない。魔力の逆流している。
このままだと、中枢神経にダメージが....」
フィネは柚華の頭を持ち上げると、
「推測だが体が拒否反応を起こしているだけ、
しかし、生気さら魔力を精製することができない。
由貴の力を吸収したときに、何らかの影響を受けたと考えるのが普通だ。
.....もしかしたら……チィッ!!」
途中で言葉を切るとフィネは急に走り出した。
「由貴、柚華を連れて下がれ!」
乱暴に、カーテンで窓を隠し、ドアを固定する。
「どうしたんだ!フィネ?」
「敵は『ディアヴォレット』という製薬会社になりすました魔術組織だ。
彼らは、非合法に麻薬、[検出されない快楽]を販売した罪により、[公館]より殲滅命令がでていたんだ。
私たちは今朝、奇襲をかけ、会社ごと潰したつもりだったけど……
けど、逃げられた....
放課後待ち伏せして一人は潰せたけど、残党の詳細は不明……。」
今朝、起きた不可解な爆発事故。
放課後、教室で倒された大男。
それらはフィネたち、魔術師が行ったことだった。
この教会を囲む複数の足音をがに集中していく。
「でも、昔に比べて魔術師は少なくなっているから。
組織の殆どが、武装した雑魚だ。
魔術の存在は知れども、使えない無能力者ばかり、
合図したら、祭壇の後ろに飛び込んでくれ。
もちろん、柚華を抱えてだが、囲まれた以上ほかに策がない!」
フィネは指輪をしている手で柚華を撫でた。
「話は済んだか?」
扉の前に一人の男が立っていた。厚手のロングコートのようなものを羽織り、二メートルを超える大男はいつから、そこにいたかわからない。
ただ、扉の施錠は壊されたどころか、開けられた形跡もない。
「待てと言った覚えはない。
お前がディアヴォレットの首領か?」
フィネは由貴たちの前に立ちはだかると、強気に言い放つ。
「如何にも。
私がディアヴォレットの首領、
イヌマーレ[土葬]のジェニーオだ。
お前らにしてやられたよ。
[公館]ばかり気を取られていて、フリーの魔術師に足元のすくわれるとは、情けない。
幸い、私達には怨敵は遠くに逃げていないようだな」
ジェニーオは懐に手を突っ込む。
だが、フィネのほうが速かった。前傾姿勢から距離をつめ、
「先手は取らせない......」
フィネは一歩踏み込んで、ジェニーオを[アンドラス]黒刀両刃で弾き飛ばした。
扉ごと吹き飛ばされたジェニーオはむくりと体を起こす。
扉を蹴破り外へ出たフィネは....
「さあ、始めようか、[土葬]。
魔術師の闘いをな……」
...
[悪魔憑き]など、カタカナの後に書いてありますが、できればカタカナで読んでほしいという意味です。