昔話 拾いもの
本日二話同時投稿となります。
こちらは二話目です。前話がございますので、ご注意ください。
小さい頃、乳母やメイドに連れられ散歩に出掛けると、よく拾いものをして帰った。
小川のきれいな石。
輝く大草の穂。
震える子犬。
落し物のブローチを見つけたこともある。
大人達とは目線が違うから、きっと早く見つけたのだろう。
そして手に入れたものをしっかりと握って、絶対に離さなかった。
我ながら迷惑な子供である。
やせっぽちの少年は、綺麗な紫の瞳をしていた。
私は、逃げようとする彼の手を掴んで離さなかった。
ちょうどその頃、自分と同じ邸の中にいる少年が兄という名の生き物で、兄は妹を可愛がるものだと知ってしまったから。
だって城へ遊びに行くと、ベルはいつも彼女の兄上に手を引いてもらってやってくる。
あの頃のシヴァーリ兄様は、食事の時に顔を合わせるだけの同居人のようだった。
一緒に遊びに連れて行かれるのに、ベルと彼の兄に完璧な礼を取るだけで、私とは目も合わせてくれなかった。
今思えば、兄はすでに王子と王女の遊び相手に選ばれた重責を理解していたし、緊張していたのだと思う。でも幼い私に分かるはずもない。
ベルが羨ましかった。
親友は、一番のライバル。彼女の真似がしたくて仕方なかった。
だから子供らしく残酷で単純な発想で、他の拾いものと同じく、丁度良い兄を見つけたと思ったのだ。
弱っていたのだろう。
私の腕を振りほどくことも出来ず、彼は橋下の河原にペタンと座ってしまった。
顔も服も煙突を通り抜けてきたように黒く煤汚れ、変な臭いがした。
今思い返せば、刀傷と血がこびり付き、彼は尋常ではない事情を抱えていた。
それでも懐に隠した剣を抜かなかったし、酷いことも口にしなかった。
いつもとは規模の違う拾いものに、執事のバルタザールは一瞬無表情になった。
でもあっという間に湯の用意をし、少年をメイドと乳母の手から引取った。
私は少年を支えてあげているつもりで得意になっていたけれど、その実足元にぶら下がっているだけだったので、さっさと乳母に抱え上げられ、湯へと運ばれた。
彼の足にしがみ付いていた私もまた、血と煤で汚れていた。
大人達の間でどのような取り決めがあったのかは知れない。
けれど一晩寝て起きると、それまでと同じように私の拾いものはちゃんとそこにあった。
少年は、バルタザール・フレイケイドの息子になった。
傷を癒し、私と遊ぶことが彼の仕事になった。
ヒュー・フレイケイドは、私が見つけて離さなかった拾いものだ。