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6/8

その3

4/3微修正しました。

 静寂が心地良い。

 今、この客間で音を奏でるのは硬質な駒の音だけだ。


 ちらりとスコットを見やると真剣な顔で盤上を見つめていた。

 最初のうちは勝つ度に、何度やっても一緒だの、もう諦めろだのと威勢の良い台詞を吐いていた。

 なかなか生意気な―――失礼、元気のよろしいお子様だったようで、そっちが素だったのか、と心中で苦笑を洩らしたものだ。

 

 とはいえ、流石に俺も七回も負ければいい加減慣れてくるもので、徐々に二手先、三手先を読みあうようになり終局までに時間がかかるようになっていた。なので、少し前あたりからお互い一言も言葉を交わすことなく盤を挟んで睨みあっている。


―――コトリ


 盤上に騎兵(ナイト)の駒が置かれるのを見てどうやら八度目の敗北が確定したらしいことを知った。


「負けました」


 そう言って、頭を下げるとどちらともなく深く息をつき、駒を並べ直す。

 もう五戦目くらいから特に合意も取らなくなっていた。


 そして、九戦目。


 盤上は殆ど殴り合いようになっていた。

 互いに(ウォール)を護りではなく相手の進路を阻むように配置し、騎兵(ナイト)を討たれれば魔導師(メイジ)を奪い、邪魔なところに陣取る斥候(スカウト)弓兵(アーチャー)で仕留め、(キング)が討たせまい逃げ回る。

 あっという間に盤上は閑散とした様相になっていた。


(強い……) 

 

 スコットは強い。こちらが不慣れというのを差し引いても相当この『タクティカ』をやり慣れていると見た。

 お子様だから適当なところで手を抜かなくてはと思っていたことを密かに詫びなくてはならないだろう。

 

 そんなときだ。

 スコットが弓兵(アーチャー)を動かし、指を離してから大きく目見開いた。

 意図の見えない位置に置かれた駒を見ながら盤上に目を走らせる。もう殆ど駒は残っていないのでそれほど手は多くなく、置き間違えたと分かった。

 

 指し直すだろうか、とスコットを見ると逡巡するように眉根を寄せていたが、やがてこちらを睨むように鋭い視線を向けていた。

 かかって来い、と無言で言っている気がして手心を加えるのをやめた。

 それは逆に失礼だ。

 

「……僕の負けだ」


 そうして俺はようやく一勝を拾い、深く息を吐いた。適度な疲労を訴える脳が心地良い。緊張が解れた反動か酩酊したようにくらくらとした。


「よし、もう一戦……」


「失礼します、旦那様方がお呼びです」


 もう何度目になるか、駒を並べ直しスコットが剣呑な好戦的な目を向けててきたところで、それは唐突に終わりを告げた。


 楽しい時間なんてそんなものだ。



 ◇



 しぶといな、とそう思ったのが三戦目。

 すぐ諦めるだろうと思っていた眼前の女は泣き出すどころか何度負かしても心無い言葉をぶつけても、もう一戦、もう一戦と挑んできた。

 

 これがただ縋り付いているだけならすぐに飽きて放り出していただろうが一戦追うごとに駒の動きに躊躇いがなくなり、少しずつ駒の動かし方を覚え始めていたために、まぁもう少しいいかとやめる機会を失っていた。


 更に何戦か重ねるとまた様子が変わり始めた。

 得意の騎兵(ナイト)で攻め込もうとして嫌な位置に魔導師(メイジ)が待ち構えていてぎくりとした。特に気にも留めていなかった駒が遅効性の毒のように効果を発し始める。

 

 何手も先を見通さなくてはならなくなり会心の手を放ったと思って、どうだ、と相手を見やりそこでようやくそういえばいつもの子弟とやっていたのではなかったと思い出した。


 いや、まさかと思い弓兵(アーチャー)を動かし、ゼノヴィアが形の良い眉を僅かに顰めたのを見て確信した。

 やる度に恐ろしい速度で強くなっている、盤上の動きを理解し始めていると。 

 

 これはもしかして楽しめるのではないだろうか、とそんな思いが湧き上がってきた。

 緋色狐が角兎を追い回すような一方的なものではなく、剣と剣を本気でぶつけ合うような遊戯が出来るのではないだろうか。


 そうして九戦目。

 全力でもって挑みかかり、ゼノヴィアもそれに応えた。

 騎兵ナイトが―――

 魔導師メイジが―――

 弓兵アーチャーが―――

 斥候スカウトが―――


 己の(キング)をするすると盤上で駆け回らせながら牙を剥く。

 駒が火花を散らしているような錯覚すら覚えた。


(こいつ……すごいな)


 そう思い、ゼノヴィアに目を向ける。

 とうに笑みなど何処かに捨て去り、決闘に赴く騎士のような鋭い視線を盤上に向けていた。どことなく顔にも精悍さが増して見える。

 服の上から分かるほど腕は細く、長く綺麗な指は剣はおろかナイフも持てそうにないくせに、少女はこの盤上では歴戦の猛将だった。


 楽しい、そう思い(キング)を追い詰めるべく弓兵(アーチャー)を動かしてハッとする。

 視線を向ければゼノヴィアも分かったのだろう、唖然とした顔をしていた。

 

 急速に熱が冷めていくのを感じた。ケチが付いたと思った。

 ゼノヴィアも勝ったというのに全然嬉しそうな顔をしていない。当たり前だ、こんなつまらない決着で誰が喜ぶというのか、もう一度、負けるのならちゃんと正々堂々と負けてやる。

 

 もう一戦、申し出たところでそれは叶わなかった。

 そうして、父上達の元へ向かい彼女との婚約の話が付いたことを知った。

 

この話いるのかなぁ・・・と思いながらうまく書けないのが歯がゆいです。

ご都合主義も良いところですが、どうせ後にこっぴどく振られる相手ですのでこんなものかなと思っています。ゼノヴィア嬢も振られたらロリコンまっしぐらなので必死に縋り付いてヒロインの邪魔をしてくれると思います。


パルミアは『王国』なので大公『閣下』なのですが、ご子息はなんて呼べば良いんでしょうね?自分で首を絞めて普通に王子様にするんだったと後悔しました。良ければ教えて頂けると助かります。

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