覚醒編 第四章
+ 瑞香イベント +
GM そして、週が明けて月曜日になる。榊学園の正門前に車が停まっていて、そこから一人の女生徒が出てくる。
/男子生徒A&B 「おい、あれって志木瑞香だぜ」「やっぱ、芸能人は違うな……」
つんとすました感じの女生徒が校門をくぐっていった。
その整った顔立ちをより際立させる化粧――その化粧のやり方は、その辺の女生徒やOLでは真似できない、プロの手腕だった。
そして、ウェーブがかかった髪をゆらしながら、ボディラインを強調するように歩いている。しかし、そこに下品さはなく、むしろ優雅さを感じさせる。
モデルの歩き方は、通常の歩きに比べて安定感、そして存在感を持たせる独特な歩き方をするらしい。それを自然体でしている志木瑞香はグラビアやファッション誌などに出る売れっ子のモデルだ。
俺はその時。
そうか、彼女が噂の志木瑞香だったのか、と何気なく思っただけだった。
正輝 へぇ~~あれが………。
夕美 ねぇねぇ、今のってげーのーじんだよね、芸能人っ。噂には聞いてたんだけど、本当にいたんだね? サインとか貰えるかな?
正輝 夕美、またそういうミーハーなことを(苦笑)。彼女だって、学校まで来てそういうのは嫌だろ? サインのお願いとかは、控えるのが礼儀なんじゃないかな?
夕美 う~ん、そっかぁ……(渋々)。
正輝 夕美、本当に分かっているのか?(苦笑)
夕美 分かっているもん、分かっているもんっ。
正輝 二度も言わなくていいからな。
椎奈 (淡々と)おはよう……。
正輝 (背後から急に声をかけられて)うわっ(びっくり)。
夕美 あ、椎奈さん。おはよーございます(ぺこり)。
正輝 ああ、おはよう、指宿さん。びっくりした、急に後ろにいるから……。
椎奈 ……(こくりと頷く)。
夕美 椎奈さんって、忍者みたいだよね(唐突)。
椎奈 忍者…?
夕美 ほら、「びゅっ」とか「ばっ」とかいって現われたり消えたりするの(笑)。
正輝 なんかイマイチ分かりづらい擬音だな(笑)。
椎奈 (ぽつりと)忍者……かっこいい………。
一同 (笑)
夕美 うんうん。だって、「ひゅひゅっ」とか「しゅたたたっ」で「ぼかーん」って……。
正輝 もう、訳分からないぞ(笑)。
椎奈 「ひゅひゅっ」が手裏剣で、「しゅたたたっ」が壁走り。
夕美 わ、すごい椎奈さん分かってるぅ。ちなみに、「ぼかーん」は敵が爆発する擬音だよ(笑)。
一同 爆発するのか!?(笑)
正輝 だめだ、俺にはちょっとついていけない会話だ(苦笑)。まあ、忍者はともかく、そろそろ教室行かないとやばくないか?
椎奈 ……(こくりと頷く)。
夕美 うんっ。
休み時間、トイレから戻る途中。
生徒がほとんどいない渡り廊下の方から声が聞こえてきた。
「ちょっと! あたしはね、仕事で忙しいの! レポートなんてやっている暇なんてないのよっ!!」
綺麗な声が、その高慢そうな口調で台無しになったような女の子の声。
「で、でも……困ります………一応、班のみんなで……」
一方、おどおどと小さな声でぼそぼそとしゃべる女の子の声。
「そんなのあんたが代わりにやりなさいよっ!! あんた、どうせ暇でしょ!?」
「そ、そんな……お願いします。みんなでやれって、先生が……」
非常に対照的な声の持ち主たち。その一人が噂の志木瑞香なのではないのか、と少し好奇心を持ち俺は覗いてみることにした。
「勉強しかできないんだから、それぐらいあんたがやりなさいよっ! あたしはね、そんなことをしている暇なんてないの! いい、今後一切あたしにそんなことやらせようだなんて思わないことね!」
睨むような威圧的な視線を送りながら、志木瑞香はその女子生徒をどんっと片手で突き飛ばした。
正輝 おっと……(その女子生徒を支えて)俺が言うべきことじゃないかもしれないけど……その言い方はないんじゃないかな?
GM/志木瑞香 「ちょっと、あんたには関係ないことでしょ!? なんなのよ、あんた!?」
正輝 俺? 俺のことなんてどうでもいいだろ。あんた、志木さんっていったっけ?
GM/瑞香 「ふんっ(知っているのは当然って顔つき)」
正輝 確かに、あんたも忙しいかもしれないけど、それはみんな一緒……。
GM/瑞香 「みんな、一緒…? ふざけないでよっ。こいつとあたしが一緒ですって? ……なに、もしかしてあんたこいつの彼氏とかそういうわけ?」
正輝 そういうわけじゃないが……。
GM/瑞香 「それなら、変なおせっかいしないでよ!!」
正輝 それに、突き飛ばすのはどうかと思うぞ。
GM/瑞香 「……もう、話にならないわねっ!(どっかに行ってしまう)」
正輝 (少し呆れながら、女子生徒に向き直って)……大丈夫か?
GM/女子生徒B 「……はい……」ちなみに、メガネをかけた地味ぃ~な子だよ。例えるなら、無理矢理委員長とかにされてしまうタイプ。「あの…あの、ありがとうございます………。その、それじゃあ」と頭を下げて行ってしまう。
正輝 ああ、それじゃあ…………まあ、志木さんも志木さんで色々とあるのかもな……。
(魅呼音 はぁ(ため息)、あんた……ちょっと好意的に解釈し過ぎじゃない?(苦笑))
(正輝 そうかな?)
(魅呼音 ……まったく、あんたって人は……)
(正輝 それに、俺はおせっかいという設定も持っているしな(笑))
*これも、主人公の基本ですね。
+ 日常茶飯事Ⅲ +
GM/連太郎 「(お昼休みに、真面目な顔で)……正輝………これはオレからの気持ちだっ!(可愛い包みを渡す)」
正輝 ……? いや、俺にそういう趣味はないぞ……。
GM/連太郎 「(軽い口調に戻って)…いや、そこの廊下でな、一女(一年生女子)にお前に渡してくれと頼まれた。なんでも、調理実習かなんかだそうで」
正輝 俺に…?
GM/連太郎 「ったく、オレみたいないい男を使い走りにするなんてな……」
正輝 (受け取って)お前も黙ってりゃ、もてるのにな(苦笑)。
GM/連太郎 「バカなっ! このオレの素晴らしいトークが分からないなんて(悶える)」
正輝 あと、そういうところもな(笑)。そういや、包みの中身はなんだ………お、クッキーかぁ。
(椎奈 危ない……!)
一同 なにっ!?
(椎奈 それは、きっと“オーヴァード化”を誘発する……)
GM するかっ!!!(爆笑)
一同 (爆笑)
魅呼音 (同時刻、屋上にて)それで、どう? 捜査の方は?
椎奈 ………思ったより、はかどらない………。
魅呼音 そうねぇ、あの伊集院の奴も学校にほとんど来てないみたいだし……。
椎奈 街も探したんだけど……。
魅呼音 いなかったわねぇ(苦笑)。
椎奈 他にも、薬関連で保健室とか調べたけど、やっぱりなにもなかったし……。とりあえず、教師の方にも怪しい人はいなかった………。
魅呼音 そっか。じゃあ、やっぱり一番怪しいのは伊集院ね。
椎奈 そうね…………あの…魅呼音さん……。
魅呼音 ん?
椎奈 もう、ちゃんと話すけど………。
魅呼音 …………。
椎奈 春日さんと日和川さんも容疑者リストに入っていた…の………(少し目をそらす)。
魅呼音 正輝とアンナがっ!?
椎奈 ……(こくりと頷く)。
魅呼音 ど、どうして正輝が…?
椎奈 彼、感染してるの………。
魅呼音 感染…って、もしかして……。
私は、魅呼音さんに彼の母親の事件のことを話しました。
彼の母親がジャームに殺されたことを。
その時に、UGNに彼が記憶処置を受けたことを。
そして、その時に彼がレネゲイドウィルスに感染していることを。
魅呼音 (一通りの説明を聞いて)でも、正輝もアンナもそういうんじゃないと思うわ。
椎奈 私も春日さんは違う気がします。でも…日和川さんはまだ、よく分かりません……。
魅呼音 確かに、あたしはアンナとは一年足らずの付き合いだけど、そんな子じゃないわよ。
椎奈 でも……(心配げ)。
魅呼音 分かったわよ、あんたがそういうならちょっと気を付けてみるわ。
椎奈 ……(こくりと頷く)。……その……。
魅呼音 ん、どうしたの?
椎奈 お友達なのに、疑わせるようなことを…………ごめんなさい…………。
魅呼音さんは少し驚いた顔をした後、私にこう言ってくれました。
「……サンキュー、話してくれて……」
その時の魅呼音さんは、
今まで生きてきて向けられたことのない最高の笑みを私に見せてくれました。
+ 正輝と椎奈 +
GM というわけで、その日の放課後。正輝と椎奈が日直で、学級日誌を書いている時のこと。
椎奈 二人っきり………きゅぴーんっ!!(目が光る擬音)
一同 な、なに!?
椎奈 春日さんにここぞとばかりに《プロファイリング》+《天性のひらめき》です(笑)。(ころころ)15……。
GM それなら、正輝がまずそうでないという確信を持てるね。魅呼音、夕美、連太郎……その他の人間の関わり方や今までの行動等で、薬物を広めたりとかそういった類のことをするような人間ではないと思える。
椎奈 ……(プロファイル中)……(プロファイル終了)……。
正輝 どうしたの、指宿さん?
椎奈 (ぽつり)……二人っきりになるの……初めて………。
(魅呼音 いきなり、椎奈も意味深なことを…(笑))
正輝 ん、そうだね。まあ、日直だしね(あっさり)。
(夕美 ああ、そして鈍感なお兄ちゃん……(笑))
椎奈 ……(こくりと頷く)。それに、いつもバスケ部の彼とかいるし……。
正輝 ああ、連太ね。あいつ、うるさくてゴメンね。
椎奈 ……友達……。
正輝 へ?
椎奈 友達……いっぱいいるのね………。
正輝 まあ、そうかな? 自分じゃよく分からないけど……。
椎奈 (ぽつりと)羨ましい………私……そういう人いなかったから………。
正輝 転校したてだからだよ。
椎奈 (首を横に振る)……私………こんな性格だから……(寂しげ)。
正輝 魅呼音とかと仲良さそうだけどな……。
椎奈 ………よく、話す………。
正輝 そっか。魅呼音はいい奴だから、仲良くしてやってよ。
椎奈 ……(こくりと頷く)。
正輝 魅呼音もだけど、連太も、夕美も……もう指宿さんのこと、友達だと思っているんじゃないかな……?
椎奈 …………。
正輝 それにさ、俺も指宿さんのこと、友達だと思ってるんだけど(笑顔)。
椎奈 ………………。
正輝 あ、あれ? 迷惑だったかな……?
椎奈 ……そ…そんなことない………嬉しい…(普通に笑えた……)。
正輝 そうか、「指宿さん」じゃぁ友達って気がしないよな。俺も「椎奈」って呼ぶからさ、俺のことも「正輝」って呼んでくれないかな?
椎奈 …………うん…………。
学級日誌を書き終えた私は、部活に行く、かす……いえ、正輝を見送りながら学校内を少しだけ捜査して帰りました。
魅呼音……正輝………。
私にとって初めての友達………。
――そう、呼んでもいいんですよね?
そして、
何気なくビルのガラスに映る私の顔を見ると、
私が心に描いていた笑みが自然と出ていました……。
ふと、坂本さんの言葉を思い出しました。
『UGNとしてではなく、一人の女の子として気軽になりたくありませんか?』
その質問に素直にうなずける自分がいることを、
間違いなく自分の中にいることを、
そして、普通の女の子の気持ちをほんのちょっぴりだけ、
感じることができました―――
+ 愛の独白 +
そして、あなたを思い続けてからどれくらいになるだろう。
いつもの日常が繰り返し繰り返し進んでいる中、わたしの想いは募るばかり。
そして、あなたの周りには気がつけばたくさんの人がいる。
気を付けて、あの女はそんな性格のいい子じゃない。
気を付けて、その女は男だったら誰でもいいなんて言っていた子。
気を付けて、この女は付き合っている人がいるの。
気を付けて。
気を付けてっ。
気を付けてっ!
気を付けてっ!!
ああ、あなたの周りには気がつけば、そんなに危険な状態になっている。
だけど、わたしは見ているだけ。
危ない、危ないよ。
わたしが手を伸ばそうとしても、あなたは遠くにいる。
わたしの存在に気付きもしない。
わたしはここにいるよ。
わたしはここにいるのよっ。
わたしはここにいるんだから――!!!
だから、
わたしに、
気付いてください。
わたしの、
この気持ちに、
気付いてください―――