学生生活で愛したいと思う人と出会い死んでいくまで。@ネタ帳3
高校三年生の夏、受験はするつもりの無かった私と既に受験を済ませた青木とかすみとでこの箱根の湖まで来たことがあった。
ただ、湖の周りを歩いていただった。
その時の気持ちを思い出すことは出来ないが、タバコの煙の味が何故かその時の若々しい自分の通り道を覚えている気がした。
20歳を超えた今、その時には飲む事のできなかった缶焼酎を青木は片手に持ち、私の歩く道のそっと横を一緒に歩いている。
「あのときはなんだったんだろうな?」と青木が言った。
あのときというのは、おそらく高校生時代のことだろう。
「うーん。うまく思い出せないな。」と私は返す。
記憶がシャボン玉の弾けるように次々に現れては消えている。
「前来た時は何をしゃべったっけ?」
「えーと、しんがくのこととか?」
「そうそう、今日もこんな感じの暗さの中、んなことをしゃべったよ!」
「そうだ。お前が進学決まってて、俺が迷ってた。」
「俺が写真をやりたいって決めてたから。お前はこの時何かやりたいこととかなかったのか?」
「あの時ね~。生きるだけで精一杯だったよ。毎日電車に乗って学校に通って、学校生活をどう送るかで精一杯だったわ。」
「その気持ちわからなくもねぇな。
俺もカメラ一つで学校生活を送ってたけど、お前たちが居なかったら何にも撮れなかったし。」
「なんじゃこれw」
「結局、お前らカップルには感謝してんだよ!」
「恥ずかしいわぃw」
そのあとも話は続いた。
「んで、お前は今後やりたいこととか見つかったの?」
「まぁ~、間に合えばやりたい事があるかな?」
嫌なことの、好きだったことも。
全てはそれで良い。
バカボンのパパではない。
過ぎたこと、今から起きることなのだから。
「俺はたぶん、 になりたいかなって。
かすみみたいな人間をもう産みたくないし、助けてあげたい。
無理でもいい。こういう子供が一人でも減りゃいいんだ。」
人の恋は3年という。
私はかすみの好きになってからもう5年は経つ。
しかし、一向に嫌いになることは無かった。
入院して彼女が話ができなくなっても、この気持ちは変わらなかった。
この日の夜、私は夢を見た。
高校の時の教室、チャイムの音が鳴り、外は秋の陽気。
教室の懐かしい匂いがしたと思うと、目の前にはカスミがいた。
「やぁ‥、元気そうだね?」
「うん。まぁ元気がだよ。」
運動部の掛け声が聞こえる中、彼女の声が少し大きめに教室内を響き渡る。
「あの日以来だよね。いつも私に話しかけてくれて本当に嬉しかった。。」
「え?」
カスミは腰掛けた机から飛び降り、私に近づく。
「私、もぅ起きないかも知れないの。でも、いつも君が僕のことを思ってくれたから。本当に嬉しかった。」
「そうなのか?
でも、こんなこと関係ない。カスミが起きなくても良い。あんたが嫌いと言ったっていいんだ。
最後に君がこの口から言ったことだけは信じてる。言葉に言えないくらい君が好きとしか言えない。君のためにしか、
自分の生きた理由が探せないほど、もぅ君の体や魂や形が忘れられない。。」
「頼むから‥私のことは
忘れてください。」
目が覚めると旅館の蛍光灯の光が見えた。
ここまで鮮明な夢を見るのは初めてといっても言いほどだった。
分かっている。
もう会うことも、目を覚ますことも無いことも
人間というのは何処から何処までが生きていると言えるのだろうか。
一度繋いでしまった命を何処までも死の輪廻に戻すことができない。
いっそのこと殺してあげたほうが幸せなのかもしれない。
しかし、それができないでいる。
私は弱い人間なのだ。
彼女がいないと生きていけないと思うほど、私は彼女というものになっていたのかもしれない。