森の出口、あるいは深淵
それからおおよそ15年、私はPTAの広報誌編集のため再び筆をとった。行事の報告など、当たり障りない文章しか書いてはいなかったけれど。
それなのに、その中の一人の安岡さんは私に、
「小山さん書きなれてるみたいだから。昔、何か書いてたんじゃない?」
と聞いた。私は嘘をつくのもイヤなので、黙ってうなづいた。
「やっぱりね、実はあたしもそうなんだ。いやさ、この前お兄ちゃんの持って帰ってきた作文の宿題なんけど、テーマがケッサクでね、ネタになりそうなんだ。どう、小山さんも書いてみない?」
気乗りしないまま、彼女が言う作文のテーマを聞く。本当にこれで作文を書かせるの? と思うくらいの突飛なテーマで、私の頭の中にすぐさま主人公が登場し、どんどんと物語を展開させていく。
「ね、なかなかそそるでしょ」
私の眼がくるくると動いているのを見て、彼女は満足そうにそう言った。
そして、私は結局その物語を15年ぶりに紡いだ。そして、気づいたことは、私は書くことがやっぱり好きだと言うことだった。人を傷つけてしまわないかと、身震いするほど怖いのに、私はそれでも……物を語ることが好きなのだと。
安岡さんの後押しもあり、私は自作をWebで発表し始めた。
幸いにも私の作品は、公開第一作で『私はこの作品に出会うためにここに登録したのかも』とのコメントを、第二作では『あなたの作品には救いがある』とのコメントをいただいた。
確かに、『面白くない』『何が書いてあるのかわからない』などの否定的なコメントもたくさんいただく。だけどそれは私の技量が足りないためだ。それは次への糧にすればいい。
私は姫ちゃんのお墓に参った。そこは姫ちゃんの引っ越した家のすぐそばの高台にあった。雲の切れ間から光が射し込んで照らされているのは、彼女のかつて住んでいた町-つまりは私の実家のある町だ。そうか、私はずっとあなたに見守られていたんだね。
ねぇ、姫ちゃん、どうかこれからも私を見ていてね。私が言葉で人を傷つけることがないかどうか。
あなたに向かって、私は書き続けていくから。
-了-




