貴方の為を思ってと言う大嫌いな人にさようならをしました。私は愛する人と幸せになります。
「貴方の為を思って言っているの。レリーヌには、こちらの青い方が似合うわ。私が桃色の方を貰ってあげる」
いつもそうだ。
アイリーナは私が欲しいものを取り上げる。
10歳の時に母同士が交流があるということで知り合ったアイリーナ。
金髪に青い瞳のとても可愛らしい少女で、伯爵家のテラスで初めて紹介された。
アイリーナの母であるカディウス伯爵夫人は、にこやかに、
「娘のアイリーナよ。仲良くしてあげてね」
レリーヌの母、マルト伯爵夫人はレリーヌに、
「レリーヌ、きちっと挨拶しなさい」
「レリーヌ・マルトと申します。よろしくお願いします」
レリーヌは茶の髪に緑の瞳の地味な容姿だ。
キラキラしているアイリーナが羨ましいと思った。
同い年だし、仲良くしたいと子供心に思った。
でも、酷い女だった。
カディウス伯爵夫人の親戚の女性が来ていて、レリーヌとアイリーナに刺繍入りの小さな袋をプレゼントしてくれるという。
色は青と桃色の二種類あった。
レリーヌは桃色が欲しかった。
でも、アイリーナに言われたのだ。
「貴方の為を思って言っているの。桃色なんて子供っぽいでしょう。私がだから貰ってあげる。レリーヌは大人っぽい青色が似合うわ。そうでしょう」
そう言って青色の袋を押し付けた。
桃色が欲しい。言い出せなかった。
レリーヌの家の親戚の女性だ。
我儘はいけない。
「素敵な袋を有難うございます」
そう言って、青色の袋を受け取った。
桃色の袋が欲しかったな。
心残りが出来た。
時々、カディウス伯爵夫人がアイリーナを連れて、母の元へ遊びに来る。
どうしてもアイリーナと会わなければならない。
アイリーナはいつもいつもいつも、レリーヌの欲しいものを取って行ってしまう。
父が可愛いリボンを買ってきてくれた。
そこに偶然、カディウス伯爵夫人とアイリーナが遊びに来ていたのだ。
父であるマルト伯爵は、リボンを二つ買ってきたものだから、
「丁度よかった。娘にリボンを買って来たんだが、二つある。赤いリボンと緑のリボンだ。どちらか一つあげよう」
アイリーナが、
「有難うございます。私は‥‥‥」
レリーヌの方を見て言うのだ。
「赤いリボンを取るわ。赤は子供っぽいから、私が貰ってあげる。レリーヌの為に言っているのよ。レリーヌは大人っぽい緑が似合うわ」
赤いリボンが欲しかった。
だから頼んで買ってきてもらったのに。緑のリボンは父が気を利かせてもう一つ買ったのだろうけれども。
また、取られてしまった。
緑のリボンを手に、我慢するしかなかった。
アイリーナの事が大嫌いになった。
16歳になって、王都の王立学園に入学した。
アイリーナと同じクラスになった。
顔も見たくないアイリーナ。でも、アイリーナは近寄ってきて、
「貴方と一緒のクラスになって嬉しいわ。仲良くしましょう」
と言って来た。
レリーヌに婚約話が持ち上がった。
ディアス・リデル公爵令息。
金の髪に青い瞳の彼は凄い美男だ。
人目を惹く程の。
歳はレリーヌと同い年の16歳。
父が取りまとめてきた婚約である。
父マルト伯爵は得意げにレリーヌに向かって、
「玉の輿だぞ。玉の輿。私がリデル公爵閣下に認められているからこそ、結べた婚約だ。これから三年間、ディアス様と交流を深め、時にはリデル公爵家に顔を出して、しっかりと未来の公爵夫人になれるように励め。いいな。レリーヌ」
「有難うございます。お父様」
母は無邪気に喜んで、
「よかったわね。最高の嫁ぎ先よ。頑張るのよ。レリーヌ」
と言ってくれた。
でも、レリーヌは自信がなかった。
私に公爵家の妻が務まるかしら。
リデル公爵家に両親に連れられて挨拶に行った。
客間で応対したリデル公爵と公爵夫人は、ディアスを連れて来て、
「息子のディアスだ。そちらがレリーヌ嬢だな」
「レリーヌ・マルトです。よろしくお願い致します」
挨拶をした。
ディアスは微笑んで、
「私がディアス・リデルだ。よろしく頼むよ」
と優しい口調で言ってくれた。
とても素敵な人。
色が白くて金の髪が柔らかそうで。
王立学園の貴公子ってあだ名がついているって言っていたわ。
こんな素敵な人の婚約者になって大丈夫かしら。
公爵夫人がレリーヌに向かって、
「少しずつ、公爵家の事を教えてあげるわ。だから週に一度はこちらへ通いなさい。いいわね」
「かしこまりました」
大変そうだけど、頑張るしかないとレリーヌは思った。
レリーヌがディアスと婚約したと言う話があっという間に王立学園で広まった。
アイリーナがやって来て、
「大変ね。レリーヌ。リデル公爵家に嫁ぐんじゃ苦労するんじゃない?格式が高い家だから」
「でも、お父様がまとめてくれた婚約よ。私は従うしかないわ」
「貴方の為を思って言っているの。この婚約、断った方がいいんじゃない?」
そこへディアスが声をかけてきた。
「レリーヌ。一緒に、昼でも。そちらは?」
「私はアイリーナ・カディウスと申します。レリーヌの友達ですわ。私も一緒にお昼を食べていいかしら?レリーヌの事を色々と教えて差し上げたいわ」
ディアスは頷いて、
「それなら、一緒に。私はレリーヌの事を良く知らないからな」
三人で食堂でお昼を食べる事になった。
アイリーナはレリーヌが話をしようとすると、ぺらぺらとディアスと話をする。
「レリーヌは幼い頃から、子供っぽくて。だから、私がレリーヌの為を思って、色々と教えて差し上げたのです。レリーヌが至らない所を私が指導してあげたのですわ」
「それは凄いな。君は友達思いなんだね」
「ええ、私ったら、とても優しい女性って言われるんですよ。周りの人たちに」
「優しい女性か。レリーヌには素晴らしい友達が傍にいるんだな」
レリーヌは答えたくなかった。
何が素晴らしい友達よ。私はアイリーナの事は大嫌い。
アイリーナは、
「レリーヌ。これからも貴方の至らない所は私が指導してあげるわ。貴方の為を思って言っているの。いいわね」
酷い酷い酷い。貴方なんて大嫌い。
友達をやめたかった。でも、母同士が仲が良くて、レリーヌは言い出せない。
ディアスはレリーヌに、
「そう言えば、君は刺繍をするのが好きらしいな」
アイリーナが割り込んで、
「レリーヌって、内気だから刺繍しか趣味がないのですわ。私は外に出て、色々と見るのが好き。今度、よろしければ王都を一緒に歩きません?」
ディアスは眉を寄せて、
「私はレリーヌの婚約者だから、婚約者以外の女性と歩くのは」
アイリーナはにこにこして、
「でしたらレリーヌと三人で歩きません?三人ならよろしいでしょう」
レリーヌは泣きたくなった。
だがディアスが立ち上がって、
「私はレリーヌ・マルト伯爵令嬢と話がしたいんだ。君はなんだ?私とレリーヌの交流を邪魔する気か?いい加減にしてほしい。私の婚約者はレリーヌだ。君じゃない。さぁレリーヌ。別の席に行こう。カディウス伯爵令嬢。失礼する」
レリーヌの手を引っ張り、ディアスが席の移動を促した。
レリーヌが席を立つと、アイリーナがこちらを睨んでいた。
ディアスは不機嫌に、
「君の友達か?品がないな。ああいう友とは深く付き合わない方がいい」
「友達じゃありませんわ。私はあの人、大嫌い」
「それならいい」
席を移動して、ディアスはレリーヌに、
「マルト伯爵は素晴らしい人だね。福祉関係にも力を入れて、父はとても高く評価している。マルト伯爵の娘である君だから、私も婚約に乗り気になったんだ」
「そうですの。父ったらそんな凄い人だったんですね」
「私は君の事がもっと知りたい。刺繍が趣味なのか?」
「ええ、綺麗な花を刺繍するのが好きなのですわ」
「今度、君の刺繍を見せて欲しい。ああ、私の事を話してはいなかったね。私は本を読むのが好きなんだ。いずれ、リデル公爵家を継ぐためにも知識は必要だからね」
「あの、私、お役に立てるでしょうか。将来、公爵夫人として」
「まだ君は若い。勿論、私も。二人で共に高めていけば大丈夫だよ。頑張ろう」
そう言ってくれて嬉しかった。
ディアスの事がレリーヌはこの瞬間に好きになった。
アイリーナが毎日のように、
「貴方の為に言っているの。貴方にリデル公爵家は無理よ。婚約解消したらいいわ」
あまりにもしつこく言ってくるので、
「話しかけないでくれる?父の決めた婚約だと言っているでしょう」
「貴方は私の言う事が聞けないの?ディアス様は貴方ごときにもったいないわ。私の方が美しいじゃない。ディアス様も婚約者が私になったら美しい私の方が気にいるに決まっているわ」
「ともかく、もう聞きたくないわ。私に話しかけないで頂戴」
アイリーナの事を、ディアスに思わず愚痴ってしまった。
ディアスは頷いて、
「貴方の為を思って言っているのが口癖だったな。あの女は。だったらあの女にふさわしい相手を紹介してやるとするか。君は心配する必要はないよ」
にこやかに言われて、レリーヌはさすが公爵家、怖いわと思った。
二日後、王立学園の教室で、レリーヌに向かってアイリーナが、
「どういうことよ。私の婚約者がラセル伯爵家のボイドだなんてっ。貴方の差し金ねっ」
ディアスが教室に入って来て、
「お前の為に結んでやった婚約だ。このままでは私の怒りを買って、破滅するしかない未来だろう?だから、お前にふさわしい婚約者を紹介してやったんだ。感謝するがいい」
アイリーナはレリーヌに、
「なんとかしてよ。貴方ならディアス様の機嫌を直せるでしょう。私は嫌っ。ボイドなんてっ」
教室にボイドが入って来た。
ボイドはとても太っていて、アイリーナに近づくと、ぎゅうううっとアイリーナを抱き締めた。
「アイリーナ。俺は嬉しいよ。綺麗な君と婚約が結べるなんて」
「ひいいいっ。離してっーーー」
「照れてしまって可愛いっ。俺、大事にするからねぇ」
「レリーヌっ。なんとかしなさいよっ」
レリーヌは言ってやった。
「貴方の為を思って言っているの。ディアス様が整えてくれた婚約、諦めて受け入れたら如何。私は貴方が鬱陶しいと思っていたの。私に婚約を解消しろと煩いんですもの。私は婚約を解消しないわ。どうか、お幸せに。よかったわね。アイリーナ」
「貴方は私の友達よねっ」
「友達じゃないわ。貴方の事はずっと大嫌いだった。もう、関わりたくもないわ」
ボイドはアイリーナを俵のように担いで教室から連れ出して行った。
アイリーナは王立学園を退学した。
ボイドが、
「早く一緒に住むために我が伯爵家にアイリーナを住ませる事にしたんだ。え?監禁しているかだって。だってあんな美人、二度と手に入らないだろう?逃げられないようにね」
カディウス伯爵夫妻は悲しんだが、リデル公爵家の結んだ縁に口出し出来なかった。
レリーヌは今は幸せだ。
リデル公爵夫人にも気に入られて、週に一度、公爵家の事を学びに行っている。
幼い頃、桃色の袋や赤いリボンを諦めた話をディアスにしたら、素敵な桃色の袋や赤色のリボンをプレゼントしてくれた。
レリーヌは、
「私は桃色や赤色が好きなのに、アイリーナは似合わないって言うから‥‥‥自然と避けていたんだわ。でも、貴方にプレゼントされて、とても嬉しくて」
ディアスはレリーヌを抱き締めてくれて、
「幼い頃の君に私から言葉を、桃色や赤色が好きだっていいんだよ。君が好きな色をこれからも沢山プレゼントしよう。君から何かを奪う者を私は許さない。愛しているよ。レリーヌ」
とても優しくて素敵なディアス。
レリーヌは幸せを感じた。
二人は王立学園を卒業後、結婚した。
アイリーナの事はどうなったのか、ボイドは王立学園でアイリーナの事を一切、語らなかった。
亡くなったとか聞かないので、生きてはいるのだろう。
監禁された状態で。
でももういい。
アイリーナの事は忘れたいから。
もう、誰も、私の物を奪わない。
愛するディアスと私は幸せになるわ。
さようなら。アイリーナ。私は貴方の事が大嫌いでした。
ディアス様。貴方の事は大好き。愛しているわ。共に幸せになりましょう。




