短編 双子魔女ピリカとルルラ
新作
朝の目覚めは、寝癖から始まる。
アラームは5分置きにセットしたのに、いつの間にか止められてる。
朝礼に間に合わないのは、いつもの事。
私が来た時には事務以外の人は仕事に出かけていて、私のデスクに書類だけが置かれてる……なんてことも、よくある事。
髪は癖が強すぎてどうにもならないので、最低限の化粧と身なりだけ整えて、会社のドアを開けた。
「……今日も、遅刻ね」
「すいや、せん……」
「仕事内容はデスクに置いといたから、自分のペースで現場に向かって」
事務の白河さんは女性の方だけど、ほんと優しい。
誰隔てなく平等に接せられるし、無自覚な怠慢を続けてる私とは、大違いだ。
「じゃ、じゃあ……、行ってきやす」
書類と無数の手紙を鞄に詰めて、会社を出る。
私の住む街は手紙好きな魔法使いが多く、ちょっと走れば文房具屋さんを目にする。
私は仕事上中を覗くことはできないが、妹のルルラが友達からもらった手紙を見せてくれた時、なんて感慨深いものなんだろう……と、読んだ時の衝撃は今でも忘れられない。
まず、筆跡で相手がどんな気持ちで書いたかが、知れる。
私が見たのは温かみのある手紙で、字を認めるのに使うペンにも、こだわりがあった。
重要な文章には太いペンを使い、忘れられてもいいような文章には、細いペンを使う。
空白が出た時はシールを使い、その時分にあったシールを、ルルラの友達は使っていた……。
便箋にも拘りがあり、ルルラが貰ったものは海の便箋だった。
ルルラはその手紙を今でも大事にしていて、病室の引き出しの中にしまってある……。
仕事が終わったら、寄ろう。
明日は、ルルラの手術なのだから。
*
一睡もできずに、朝を迎えてしまった。
今日は手術なのに。
昨日ピリカが仕事帰りに、こちらに寄ってくれたけど、ピリカの存在は不安を煽るだけだった。
「大丈夫、必ず成功するから」
何の根拠があって、そんな事言えるの?
失敗してあの世に行ったら、私化けて出てきてやるから。
ピリカの家で悪戯して、何度も引っ越しさせてやるんだから。
*
ルルラが亡くなったという知らせを知った時、「だろうな」と思った。
ルルラは私と会う時は強気だけど、ほんとはものすごく打たれ弱いことも、知っていたから。
霊安室でルルラの遺体を見た時、この先私はルルラに首を絞めつけられるだろうな、とも思った。
ルルラの葬儀を終えた、次の日。
家に帰ると、食器棚にしまってあった食器が全部割れていた。
私は一人暮らしなので、その割れた破片を一片一片新聞紙の上にまとめ、長い掃除を終えて、仕事帰りに買った弁当を食べてから、シャワーを浴びた。
シャワーを浴びていると、突然お湯が出なくなり、「故障か?」と思ったら、ルルラの嗤い声がした。
姿は見えないが、確実にどこかに居る。
そんなルルラを邪険に扱うのは姉として最低なので、何があっても仕返しはせず、壊されたものは処分した。
今日なんか化粧をしても顔色が悪かったのか、「ピリカさん……、だ、大丈夫ですか?」と、白河さんに心配された。
私は「ダメだったら、帰ります」とだけ伝え仕事に向かったが、箒に乗って現場に向かっている途中で強い風がふき、鞄の中にしまってあった物を、地上に落としてしまった。
私は慌てて拾ったが、そのうちの何通かは見つけることができず、会社に戻ると真っ先に上司に叱られた。
そりゃあ私が悪いのは当然だが、なくしたうちの5通は第三者の手で開けられ、会社に苦情がきてるとのこと。
私はただただ謝ることしかできず、ルルラの存在に怒りを感じ始めていた。
ポルターガイストに転生して、私の意地悪ばっかして。
確かにダメなとこはあっただろうけど、それでもルルラの治療費を払ったのは、ほとんど私だよ?
両親は私たちが2歳の時に亡くなって、身寄りのない私たちは、国の援助で経営してる孤児院で生活したじゃん。
魔法が上手く使えたのはルルラの方だし、病気になってからは私の方が使えたかもしれないけど、それでもルルラには負けたよ。
こんな事される覚えないし、居るならちゃんと話し合いたい。
『……じゃあ、私を救い出してよ』
天井からルルラが現れる。
ルルラの身体は透けていて、明かりがなければ、ほとんど見えない。
両頬に手のひらをつけ、空宙で脚を内股にさせている……。
「助ける……って、どんな?」
『私に、美味しいお菓子を食べさせること』
それなら簡単だ。
店で買ってくればいい。
『でも、私が欲しいのは近場の菓子じゃないの。行列に並んでまで手に入るお菓子じゃないと、満足できないなあ』
……我儘な妹。
「わ、わかった……。でも仕事の日は、やめてね。前みたいに邪魔でもされたら、ほんとクビになるから……」
妹が指定した店でジェラートをふたつ買うと、妹は私が代金を支払う前に食べた。
店員はムッとしていたが、私が多めに支払うと、何も言わずに次の客を誘導した……。
a煩悩




