2)招待状
その日の午後、レナは父に呼び出された。
応接間の机の上には、一枚の封筒が置かれている。上質な紙に、金の封蝋。どう見ても、貴族社会の厄介ごとを呼び寄せる代物だった。
「レナ、今週末の舞踏会に出席することになった」
「……舞踏会? また?」
思わずうんざりした声が漏れる。
どうせ誰かと引き合わせるつもりなのだろう。父の目はすでに「婚約」という二文字でいっぱいだ。
「今度の舞踏会には、王家の縁戚筋や有力貴族の子弟が揃う。お前にとっても良い機会だ」
「……また私を見世物にする気?」
レナは視線をそらした。
だが、ちらりと見えた封筒には、彼女の知らぬ名が書かれていた。
――エリオット・アーデルハイド。
父は淡々と告げる。
「第二王子に仕える近衛騎士だ。若いが家柄も優秀、将来有望だ。今回の舞踏会は、その青年を含めた数名の候補を紹介する場でもある」
レナは思わず吹き出した。
「ふふっ……なるほど、候補者品評会ってわけね。ほんと、趣味が悪いわ」
心のどこかで「どうせ退屈だろう」と決めつけながらも、胸の奥で妙なざわつきが広がる。
──噂の「婚約者候補」が、私をどう見るのか。