表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
君が待ちわびる黄昏で  作者: 霞花怜(Ray)


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

9/41

第9話 七月 夏至①

 七月になり、梅雨も明けた。

 湿り気のある雲は去って、乾いた濃い青が広がる空になった。


 あの告白からも、夏希は神社に結陽に会いに行っている。

 あくまで、友人として。

 一緒にいれば楽しいし、話も弾む。いつも通りの時間が過ぎる。

 好きという気持ちを意識さえしなければ、今まで通りだ。


(けど、俺はあの告白で、かなり自分の気持ち意識してるし、会うたびに想いが膨れ上がって、辛い)


 結陽と話せば話すほど、触れるほど、好きだと実感させられる。

 いっそ会うのをやめようと思うのに、夏希の足は今日も神社に向かう。


 いつもの場所で、スケッチブックに空の色を落とし込む結陽を、遠くから眺めた。


(結陽さんは、辛いとか、ないのかな。話し方も態度も今まで通りだし。俺とは、違うのかな)


 そう考えると悲しくなる。

 夏希の姿に気が付いた結陽が、軽く手を上げた。

 

「今日の空は、夏希君好みですか?」


 指さされて、見上げる。

 如何にも夏の顔をした空は、威勢が良くて力強い。


「こういう空も好きだけど。元気すぎて疲れます。俺はもっと、空気が涼しくて冴えた空が好きです。やっぱり、秋の空がいいな」


 元気すぎる空は、夏希には眩しすぎる。


「僕もです。夏空って、勢いが有り余っている感じがしますよね」

「黄昏が好きな結陽さんらしいですね」


 夏希は結陽の隣に腰掛けた。

 覗き込んだスケッチブックに描かれていた絵を見付けて、ドキリとした。


「その絵……」

「ああ、これ、夏希君です」


 一目見て、自分だとわかった。だから、驚いた。


「人物画も描くんですね」


 当然と言えば当然だ。

 空の絵だけでは画家にはなれないだろう。


「僕の専攻は風景でね。人を描くのは、あまり得意じゃなくて。でも、夏希君は描いておきたいなと思ったんです」


 言い回しが気になって、結陽を見詰める。


「だから今日は、夏希君を観ながら描いてもいいですか? スケッチだから、気楽にね?」

「わかりました。描いてください」


 それだけ言って、夏希は黙った。

 何時もなら夏希の言葉を待って話す結陽が、畳みかけるように言葉を重ねる時は、聞かれたくないことがある時だ。

 あの告白の時もそうだった。

 好きなのに恋人になれない理由を、夏希はまだ聞いていない。


「夏希君は、空の写真を撮ろうと思ったりは、しないんですか?」


 絵を描きながら、結陽が問い掛けた。


「写真、ですか」

「僕が空の絵を描くように、別の媒体に写したいと思ったりしないのかなって」

「あまり、思いません。肉眼で見た景色と写真は別物というか。残すのが好きなわけではないから」


 実際に目にした景色と写真は、同じ場所というだけで映り方が全く違う。

 スマホの写真に何度、落胆したか知れない。だから、写真を撮るのはやめた。

 その瞬間を自分の目で見て楽しみたい。記憶の中に刻み込んでおきたい。

 夏希にとって、空はそういう趣味だ。


「絵は?」


 とても短い問い掛けだ。

 好きかどうかを聞いているのか、空を絵に映す結陽の行為をどう思うのか。

 色んな問いに聴こえる。

 

(結陽さんは、そういうトコが時々、狡い。多分、怖いんだろうな)


 自分の純粋な想いや疑問に対するストレートな返答が怖い。

 だから誤魔化したり言わせなかったりするんだろう。

 それがわかってきて、最近はちょっとイラっとする。


(そんな風に逃げるのが、結陽さんの癖なんだ。今まで、そうやって生きてきたんだろうな)


 否定する気も、咎める気もない。

 そういう逃げ方も、生きていれば必要だ。

 ただ、そんな風に逃げる結陽が、今の夏希には身勝手に映る。

 子供っぽい我儘や拗ねだと思った。


「結陽さんが描く、空の絵が好きです。今まで絵画って意識したことなかったから、他はわかりません」

「そっか。夏希君に好きって言ってもらえるのは、嬉しいですね」


 結陽が本当に嬉しそうに笑う。


(好きって言われて嬉しいなら、どうして……)


 聞きたい疑問を必死で耐える。

 結陽は最近、夏希に対して敬語を忘れる。敬語もまた、人との距離を保つための結陽の武器なのだと、気が付いた。


(それくらい意識して、俺との距離を縮めないように気を付けてるんだよな、きっと)


 うっかりタメ口になる自分を律して、夏希に対してわざと敬語を使っている。

 身近に気安く感じる気持ちも、好きだと思う気持ちも抑えて夏希を遠ざける理由がわからない。

 だから、ちょっとだけ意地悪したくなった。


「ねぇ、結陽さん。敬語やめてっていったら、やめてくれる?」


 自分も敬語をやめて問い掛けた。

 結陽がスケッチブックから顔を上げた。


「友達として、もっと仲良くなりたいからさ」


 敢えて友達を強調した話し方をした。

 

「……ん、わかった。努力してみるよ。けど、僕にとって敬語はデフォだから、うっかり出ちゃうこともあると思うけど」


 ちょっと困った顔で笑んだ。結陽的に、本意ではないのだろう。


「それに、次に夏希君に会えるのはきっと、君が好きな空の頃になりそうだから、戻っていたら、ごめんね」

「は? 秋まで会えないってこと?」


 突然、飛び出した爆弾発言に、思わず身を乗り出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ