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君が待ちわびる黄昏で  作者: 霞花怜(Ray)


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第16話 八月 処暑①

 八月二十三日、夏希は健太と結陽の個展に向かった。

 結局、個展に行く日まで結陽には会わなかった。個展で会えるかもわからないが、健太曰く「大丈夫」らしい。

 毎日のように本人が待機しているのか疑問だったが、いる日もあるのだろうと思う。

 今日は会って、少しでも話がしたかった。


「こんな場所に古民家なんか、あったんだ」


 綺麗に拭かれた茅葺屋根を見上げて、夏希は呟いた。

 

 チケットに書かれていた開催場所がよくわからなかったので、健太に聞いてみた。

 知っている場所だというので連れてきてもらった。

 結陽の絵画展は、美大からほど近い場所にある、古民家を改築した一軒家だった。

 ソコソコ広い庭は駐車場としても使えるように整備されている。奥には花壇や庭木が植わっている。

 よく手入れされているように見える。


「公民館とか展示場とか、そういう場所をイメージしてた」

「この古民家、うちの法人の所有なんだよ。一応、美大の一部ってことになってるらしいけど」

「あぁ、なる。だから健太は場所とか知ってたんだ」

「美大の生徒の作品展示とか絵画展とか、ここでやんの。珍しいし雰囲気あって人気だから、時々取材とかも来るんだぜ」

「へぇ、すごいね」


 この古民家も凄いが、健太の情報量が凄い。

 実家の家業を継ぐという話は中学の頃から聞いていたが、伊達ではないのだと改めて感じた。


「今回は茅野結陽(有名人)の個展だし、来場者数が普段の倍以上で駐車場も足りないとか聞いたけど。会場だって都内とかじゃないのに、落ち目の絵画業界で流石の集客力だよなぁ」


 健太のぼやきに、夏希は俯いた。

 ネットで調べた茅野結陽は、夏希が知る結陽とは、まるで別人だった。


(やっぱり住む世界が違う人、だよな)


 あまりにもかけ離れすぎていて、そんな言葉しか浮かばない。


「じゃぁ、ゆっくり観られないかな。今日も、きっと混むね」


 夏希の呟きに、健太が振り返った。


「お前、チケットちゃんと読んでねぇの?」

「チケット? なんで?」


 手にしたチケットを眺める。


「今日は一般来場休館日だよ。夏希がもらったチケット、特別来賓用で日にちが指定されてんじゃん」

「え? うそ」


 改めてチケットを見てみる。

 今日以外に、数日の日付が指定されていた。しかも予約制だ。


「健太が二十三日って言ってたから、なんも考えてなかった」

「夏希ってそういうトコ、あるよな。お前にチケット貰った時点で予約した俺に感謝しろよ」

「……ありがとう、ございます」


 もはやお礼しか言えない。

 健太にチケットを渡したのは図書委員の窓口係の日だから、八月頭くらいだ。

 健太のことだから、その日のうちに予約したんだろう。

 

(相変わらず流石としか言えない。そういうトコ、俺とは違うよな)


 きっと恋人だったらスパダリなんだろう、などと思た。


(いやいやいや、何考えてんだ、俺。健太はない。友達以外、ない)


 そもそも健太の陽キャオーラが強すぎて、夏希的には疲れる。

 時々会う分にはいいが、毎日一緒に行動できない。

 夏希にとって健太は、そういう存在だ。


(結陽さんに拒否られたからって、好きって言ってくれた健太に頼るのは、狡いよな)


 その上、弱気になった時だけ恋愛対象にするなんて、最低すぎる。


(俺、こんなに嫌な奴だったんだ。最低すぎて言い訳もできない)


 自分の狡さや弱さが嫌になる。

 そんな夏希の手を、健太が握った。


「暑いし、さっさと中に入ろうぜ」


 夏希の手を引いて健太が歩き出した。


「待ってよ、手、握らなくても……」

「だって、今日はデートじゃん。俺は夏希のこと好きな前提でここに来てるって、言ったよな」

「それは……」


 確かにそういう話だったが。了承したわけでも恋人になった訳でもない。


「予約とったお礼、してくれてもいいんじゃねぇの?」


 夏希は、ぐっと唇をかんだ。


「手、繋げばいいの?」

「ん、今はそれでいい」

「今はって、何だよ」

「いいから、振り払ったりすんなよ。ちゃんと握ってろ」


 健太に強く手を握られて、夏希は古民家の中に入った。

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