第3話
――――配信開始
視聴者22人。
「おう!? もうこんなに人がいる」
【美人と聞いて】
【美少女と聞いて】
【竜人と聞いて】
【うお、美人】
【前の配信のやつどうなったん?】
前回来てくれた視聴者かな。
「ちょっと待ってね。言っていいのか聞いてみる」
Suzuki:鬼塚さん、配信で異種族のことってどのあたりまで言っていいんです?
ソッキー:身分証明と自分の身体的特徴あたりならいくらでも言って構わんぞ
ちと見つけにくいが調べれば出てくる情報なんじゃ
Suzuki:マジすか
ソッキー:マジじゃ
まあネタサイトとか眉唾とか都市伝説扱いされているがの……
Suzuki:そうなんですね……
異種族のことってそこまで機密情報でもないのか。
以前、人払いをしていたのは俺が正気を失って暴れた場合の対処らしいし存在を知られること自体は織り込み済みなのだろう。そうでなければ配信許可なんてされないよね。
「聞いたら喋ってオッケーだったんで順を追って説明していくぞ」
ある日、朝起きたら姿が変わっていたこと。
角や尻尾が作り物でないこと。
異種族の血が混じった竜人であること。
「で、身分証明手続きも無事終わったってワケ」
【ほへー】
【理解した(理解していない)】
【この世のすべてを理解した】
【都市伝説って実在するパターンあるんだw】
【なんかすごいことしゃべってない?】
【この規模の雑談配信で言うのは重過ぎるッ!】
【身分証明できてよかったじゃん。これで大手を振って生きていけるね】
【なお外出できるかは別問題】
【まあ目立つしな】
【角と尻尾は隠せるんだよな?】
「隠せるよ……ほいっと」
ぽふっ、っとポップな音が鳴り、角と尻尾が消える。
未だにどういう原理か分からないが、便利だと思うことにした。
【なんだ問題ないじゃーん】
【どういう原理なの……】
【なにこのファンタジー】
【CGじゃないのか】
【CGかもしれないし本物かもしれない】
【見せてやってくださいよ! あの質感を!】
「え、またやるの? 前の配信で5回くらいやったんだけど」
俺は呆れ気味に若干引いた。
【またとは】
【やってくれよぉ~】
【実はあのときガチ恋しかけたのは秘密だぞ】
【暴露やめてw】
【見せてくれ。竜人の真髄ってやつを……ッ!】
【まあ角とか尻尾……あとは牙とかね。拡大して見るだけなんすよ】
【めっちゃセンシティブでは?】
【はい! かなりセンシティブだと思います!】
【ちょっと子どもだって見てるんですよ!】
【いやこんな配信見る子どもなんていないでしょ】
【将来が期待できそうな子ですな】
「はいはい。勝手に盛り上がらない」
再び角と尻尾を生やし、眼光を鋭くする。
実は眼にも力を少し入れると薄く発光して迫力が出ることが分かった。
「ふっふっふ。どうよ。前よりも迫力が……ってあれ、コメント止まった?」
それから1分ほど経過するとコメントが流れ始めた。
【びっくりしたぁ】
【なんかぞわぞわした】
【なんていうのかな、本能的に命の危機を感じたよ】
【心臓がドキドキする……ハッ! これが恋】
【吊り橋効果ってやつ】
【うーん、エキゾチック】
「そんなにやばかったんだ。やっぱり眼かね」
【だね】
【目力が凄い】
【一旦引っ込めてもらって】
「んー、こんな感じで大丈夫?」
眼に込めた力を抜いてみる。
【お、収まったね】
【よきよき】
【あああああ! なんでやめちゃうのおおおお!】
【もう中毒者が】
【癖になってんだ。命の危機感じるの】
【危ないからやめなさいw】
どうやら何人か新しい扉を開いてしまったようだ。
俺はおもむろに尻尾をカメラに近づけた。元々彼らの所望していたのはこっちなのだ。
「硬そうに見えるけど結構しっとりしてて触り心地がいいんだこれが」
尻尾をすりすり撫でると心が落ち着く。
抱き枕代わりに尻尾を抱いたら安眠できたのでリラックス効果も実証済みだ。俺調べ。
【ふむ、これはこれは】
【研究したい】
【触ってみてえ】
【綺麗なグラデーション】
次に角だ。
これはかなり硬質的で金属感がある。
触っても触られてる感覚はあまりない。爪のような感じだ。
【角はかっけえな】
【どんな生き物の角なんだろ】
【そりゃ竜でしょ】
【竜でした】
【竜ってなんだよ。ファンタジー過ぎるだろ】
【ファンタジー存在が向こう側にいる件】
【冷静に考えると地球って竜がいるんだな】
「竜ってなんなんだろうね」
手元で尻尾をフリフリしながら思考に耽る。
竜の血を引く人間ってことは人間と竜が交わる必要があるわけだ。どうやったんですかね。
「不思議生物過ぎる」
で、最後は牙である。
これに関してはサーベルタイガーのようなものではなく、人間より少し長い程度だ。
竜人の口内はかなり丈夫のようで、歯が鋭くても一切傷つかない上に痛みもない。こういうところで竜人のハイスペックボディを実感できる。戦うとかないからね。
「牙は……こんふぁはんひ……ほう?」
【うお】
【スゥーっ】
【あの】
【えーっとですね】
【初見の人はぶっ刺さるだろうな】
【二度目でもぶっ刺さりまくりですが】
どうしたのだろうか。
コメント欄が妙に何か言いづらそうな雰囲気だ。
「人間の時より鋭くなったなあくらいなんだけど、やっぱ口の中を映すのは下品だったかな」
【いやいやいやそんなことはありませんとも】
【ビジュアルと相まって上品でしたよ】
【ハッハッハ】
【かなりセンシティブでしたね!】
【はい】
【正直でよろしい】
【紳士ぶっても無駄だぜ!】
【しばらくは竜人ちゃんにハマってしまうかもしれん】
「心配して損したな! 竜人ちゃんで思い出したけど、あだ名というか呼び名が無いね。チャンネル名も竜人娘としか書いてないし」
【ほーん、ほんじゃなんか考えるか】
【竜人ちゃんでいいのでは】
【それだと今後竜人の配信者出た時に困るだろ】
【それもそうだな】
【竜といえばドラゴンか】
【てか元々男だったんならそれも考慮しないとな】
【あー】
「あんまり可愛い系はキツイかもなあ。きゃぴきゃぴできる自信ないよ」
【きゃぴきゃぴw】
【もう言い方が古い】
【www】
【ドラさんでいいだろ】
【竜おじさん】
【んじゃ、ゴンさん】
竜人とそれとなく分かるレベルかつ可愛すぎない呼び方なら何でもいい。
ふむ、まあこの中ならこれでいいか。
「よし、決めた」
尻尾を下ろし、少し前のめりになってカメラへ眼を向ける。
「今日から俺はゴンさん」
チャンネル名は、
――――TS竜人娘のゴンさん