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第2話


 玄関のドアを開けると、目の前に黒いサングラスをかけた厳つい黒服の男が立っていた。


「あ、えーっと」


 冷や汗が流れる。

 何も悪いことはしていないはずだ。きっとこの黒服さんも何かの間違いだろう。


「おぬしが鈴木 史郎(すずき しろう)殿じゃな? おおよその事情は理解しているゆえ、安心するがよい」

「!?」


 く、黒服の男から幼い女児の声が……え、こわい。腹話術か何か?


 目を白黒させていると黒服の男がすっと両手を下へ向けて差し出す。


「へ? うおっ!?」

「おう!?」


 幼女がいた。

 俺が大きな声を出して相手もびっくりしている。


「なんじゃ、儂に気づいておらんかったのか」

「すみません。最近急に背が伸びまして……」

「よいよい。おぬしもいきなりそんな姿になってびっくりしたじゃろう」


 そんな姿になってとは。

 こちらの幼女様は何かを知っているようだ。


「本日こちらへ参ったのはほかでもない。おぬしの肉体が大きく変化したことについてじゃ」

「あ、これについて何かご存じで?」


 隠し忘れた角を触る。


「うむ。その姿から察するに竜人であることは間違いないじゃろう。どの血筋かまでは分からんが」


 即バレである。

 何より幼女様は異形の姿に何ひとつ疑問を抱いていない。最初から俺が人間らしからぬ謎生物であることを承知で訪問していると見ていいだろう。


「ま、あまり警戒せんでもよい。種族は違えど儂もまた普通の人間ではない」


 黒髪黒目の幼女様の姿が頭頂部からみるみるうちに変貌していく。


「……吸血鬼?」

「さよう。儂は吸血鬼じゃ」


 幼女様が幼女様じゃなくなってしまった。

 なんと銀髪紅眼、スタイル抜群のお姉さんにその姿を変えていたのだ。戻して。


「ひょっとして後ろの方も」

「あー、こやつはただ強いだけの人間じゃ。ちなみに握力150kgの馬鹿力じゃよ」

「ただ強いってレベルなんですかね」


 黒服さんがマッスルポーズをとる。ノリがいい人だ。


「話を戻すぞ。おぬしのことは動画配信サイトの運営から連絡があったのじゃ。まああれだけ分かりやすくしてれば即バレるがのう」


 若干呆れ気味に笑う元幼女様。

 というか世界的に有名な動画配信サイトの運営と繋がりあるんすね……。どうやら俺の想像以上に地球はファンタジーらしい。


「念の為、人払いはしているがそう長くは持たん。できれば家の中にお邪魔したいのじゃが」

「あー、配信中なのでちょっとまってください。切り上げますんで」

「うむ。なるはやで頼むのじゃ」



 ******



 ワンルーム。

 竜人、吸血鬼、マッチョ人間がちゃぶ台を囲んでいる。


 ところで黒服さん? Youはなぜ俺と元幼女様の中間に座っているんだい? 雰囲気的に元幼女様の後ろじゃないんかい。


「枝松よ。おぬしは儂の後ろに控えておれ」

「……承知」


 あ、やっぱりその位置なのね。


「名を名乗っておらんかったな。儂は鬼塚 祖鬼(おにづか そき)。異種族を管理している機関に所属しておる」


 名刺を受け取る。


 ――――世界異種族管理機関


「日本に限らず世界規模で儂のようなエージェントがおってな。おぬしのように突然姿が変わってしまった者がなるべく不都合なく暮らしていけるようにサポートするのが主な活動内容じゃ」

「そんな機関が……配信なんかした日には俺のように即見つけられちゃうわけだ」

「うむ。特に動画配信サイトを運営している会社のトップは儂と同じ吸血鬼でな。今回はその吸血鬼、儂のひ孫から連絡が来たゆえ、すぐ動けたわけじゃ」

「あ、ひ孫さん。ってひ孫!?」


 え、この二十代前半みたいな見た目でひ孫がいて? 世界的に他の追随を許さない動画配信サイトのトップで?

 属性盛り過ぎてお腹いっぱいだよ。


「これでも縄文時代から生きておるのでな。吸血鬼の九割は儂の子孫よ」

「なんかすごい情報出てきた」

「すごさで言えばおぬしも大概ではあるのじゃが。一旦それは置いておこう」


 スッと書類の束を差し出される。


「これは……?」

「異種族用の身分証明に必要な書類じゃ。本人確認のためにこの後も身体検査もあるから今のうちに書いてしまうほうがよい。

 あ、ちゃんと全部読むのじゃぞ? 騙すつもりなど毛頭ないのでな」

「ここまで見せられて騙されるとは思ってないですけど、ちゃんと間違えずに書けるかな」


 こういった手続き関連の書類は記入方法がややこしかったりする。しっかり読み込めば間違うことはないが、人間だからね。そりゃあ間違うこともある。


「なあに安心せい。儂と枝松が手取り足取り教えてやるとも」


「……ふん!」とマッスルポーズを決める枝松さん。

 そしてぼふんという擬音語が聞こえそうな感じで幼女様状態に戻る鬼塚さん。やったぜ。




 ******




 くぅううう! 終わったぜ!

 あれよあれよという間にあらゆる手続きが滞りなく進んだ。

 途中でなぜか総理大臣と遭遇したりもしたけど何かの見間違いだったかもしれねえ。鬼塚さんに頭下げてたあたり、やっぱあの人エージェントやってるのおかしいのでは。なんでそんな偉い人が現場で動きまくってるんだ。


「まあ一番の驚きは配信許可があっさり出たことだけど」


 年々増えてきている異種族。

 俺のように異種族の血が突然覚醒して姿が変わってしまう者が後を絶たないらしい。

 一説によれば現代は食べるものが多様化してきており、たまたまその種族にとって血の覚醒を促しやすいものを食べた影響で増えているのではないかというものだ。俺自身、普段と違うものは食べていないにも関わらず竜人になったため、必ずしもそうとは限らない。


 ともあれ、実際増えているのは事実なので、ここはひとつ異種族を受け入れやすくする土壌を作るためにもライブ配信を通じて心の壁を取り払っていこうというわけである。

 実は他にもライブ配信をしている異種族はいるが、吸血鬼のようにあまり人間と姿が変わらなかったりする。そこでビジュアルがいい感じながらもしっかりと異種族感のある俺が抜擢された。


「配信内容は自由に決めていい、か。まずは前と同じ雑談でいいかな」


 鬼塚さんが「うひょー! ワクワクするのう!」と新たな住居と配信機材を手配すると張り切っていた。あの人、一緒に住むんじゃないかって勢いだったけど大丈夫かな。

 それまでに時間が空いたので、今ある低音質低解像度の機材で可能な雑談配信をしようと考えている。引っ越し前の片づけ? 片付けるほど物もなければ、いつも掃除しているので部屋は綺麗なのだ。


「よいしょ、こんな感じか。角と尻尾は出しっぱなしでいくぞ」


 ぞい! と両手を胸の前でグーにして構える。






 ――――配信開始




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