表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

四者四様(よんしゃしよう)

作者: 塩狸

私ねぇ。

常々、幽霊とか視える人って、みんなどんな風に視えるのかなって思ってたの。

これっぽっちも霊感ないから。

この間ね、デートでドライブした帰り道。

んふ、いいでしょ?

ニュー彼氏よ。

夕方前くらいで、まだちょっと物足りなかったから、高速でなくて、のんびり峠道を通って帰ることになったの。

そろそろ峠を登りきる頃だったかな、くねった狭い車道とガードレールしかない道の先に、ピンクのセーターと白いスカート姿の若い女の子が、1人で道の端を歩いてたのよ。

頂上の方に向かって。

「え?こんなところを徒歩で?もしかして彼氏と喧嘩して置いていかれたとか?」

と思ってさ。

もう陽も暮れかけてるし、運転してる彼氏に、

「ね、停まってあげてよ、せめて街中まで乗せてあげようよ」

って言ったの。

おせっかいおばちゃんと言われてもいいわよ、放っておけないでしょ?

でもね。

彼氏、私の言葉をガン無視して通り過ぎたのよ。

むしろアクセル踏みこんでよ?

「こいつ、面倒を背負いたくないんだ、薄情な男だ」

って彼氏に失望して、彼氏は彼氏で何も言わなくてね。

そのままお互い無言で峠を降りて街中に出てから、

「……君って、優しいんだね」

って、言葉とは全く裏腹に引き気味の横顔で言われたの。

彼氏曰くね、

「腐った肉の塊がボロボロの布を巻き付けて、ガードレールにずがりながら、剥き出しの足骨っぽいものを引き摺って、ズルズルと歩いてた」

って言われた。

それで、

「あれは視界にすら入れてはいけないものだ」

と一刻も早く逃げたくて必死だったのに、私に、

『ね、停まってあげてよ、せめて街中まで乗せてあげようよ』

そんな事を言われて、正気なのかと若干パニックになりかけたって。

どっちが「見た」ものが正解なのかは未だにわからないし、

「視えない」

「霊感ない」

って思ってる人も、案外視えてる人だったりするのよね、私含めさ。


食事の席で、そんな話をしてくれたのは仲良し4人組のA。

いきなりね、こうも唐突に何を話し出しても、そうそう驚かないくらいには、長いお付き合いよ。

今も皆で、ふんふんなるほどねぇと頷いてたら、

「あー、ちょっと解るかも」

と手を上げたのはB。


私も幽霊っぽい人、わりと最近見たわ。

更年期になってさ、性欲が衰えるどころか、思春期の中学生男子みたいにムラムラするようになって、貪るようにエッチなDVD観てた時よ。

その時に観てたのが、定点カメラバージョンだったんだけど。

え?

定点カメラ知らない?

カメラが固定されてるのよ。

え?詳しい?あらそう?

やだ、常識ではないのね。

まぁいいわ。

それでよ、男優と女優さんが絡んでたんだけど、部屋の端に女の人が立ってたの。

服はね、ブラウスと、地味なタイトスカートとかだったと思う。

ベッドの方を見るように、カメラに対して横向きに立ってて、演出かとも思ったけど、観てたのは別に特殊なジャンルでもなく、女性向けのラブラブエッチのはず。

間違っても、

『嫁に見られながらの背徳セックス』

みたいなタイトルじゃなかった。

それで気になってさ、その人のことを、目を凝らして見たら、その女の人、どうにも向こう側の壁がなんか透けて見えるし、微動だにしないの。

でも絶えず映ってるから、嫌でも視界に入ってくるし、集中できないでいたのよ。

それでもね、

(もーっ)

ってモヤモヤしつつ見てたら、段々、段々ね、その透けてる女の人が、ゆっくりこっちを振り向いて来てたの。

気付かないくらいゆっくりと、でも確実に。

身体ごとよ。

気付いた時には結構こっち向いてて。

お尻から背中に向けてぞわぞわっとして、

「あ、これ、なんか、完全にこっち向かれたら凄く良くないやつっぽい」

って、思う前にね、もう気付いたら手が勝手にリモコン掴んでテレビ消してた。

中学生男子から、一気に枯れた多肉植物よ。

え?例えが下手?うるさいわね。

それでね、少しして嫌なドキドキが落ち着いてから調べたら。

そのAVに出てたのは、女優さんは勿論、男優さんもね、結構人気のある2人だったんだけど、あの作品を最後に、いきなり引退しちゃってた。

SNSみたいなものも、パタッと更新が止まってるって見たわ。

もしかしたら、あの透けてた人と何か関係あるのかなって。

ああいう業界は流行り廃り早いし、穿(うが)ちすぎかしらね?

え?

今もAV観てるか?

ちょっとぉ、興味あるのそっちなの?

え、みんなも?

もーぅ。

そうね、うん、普通にたくさん観てるわよ。

たまにそれっぽいの視えるけど、最近はもう視えても全然気にしないで絡みに集中してる。

むしろ邪魔すんなって思うくらい。

何事も慣れるもんね。


そう。

次はそんなホットなお話で、しばらく4人で、中年の性欲っていう、生々しい話題で盛り上がった後よ。


私はふとCと目が合ったため、お先にどうぞと促せば。

「いい?ありがと。

私はねぇ。

うーん、正確に、

『視えた』

のかは分からないんだけど」

と、首を傾げてさ。


私は、話を聞きつつも、皆の口から、さらりと、

「視えた」

事に関するエピソードが出てくることにもびっくりする。

無駄に年を重ねてるだけはあるのかしら。

あぁ失礼、Cの話ね。


もうだいぶ昔の話だけどね。

浮気した旦那と、仲直り旅行へ行ったんだよ。

旦那は、

「魔が差した」

って平謝りしてきたし、人には間違いも失敗もあるからさ。

許したの。

そしたらね、その日の旅行中の夜中よ。

同じベッドで眠る旦那が、凄くうなされてて、その息苦しそうな呻き声で目が覚めたの。

私は、旦那に背中を向けて寝てたから、その呻き声で、どうしたのかと思って振り返ったらね。

仰向けで寝ている旦那の身体に、女が馬乗りになって旦那の首を絞めてたの。

勿論、びっくりしたわよ。

でもね。

旦那に馬乗りになったその人、怒ってたり、恨み辛みの表情をしてなくて。

ただただ、淡々とね、無表情で、まるで作業みたいに、旦那の首を絞めてたの。

ほぼ真っ暗な部屋の中で、確かにその人は見えているのに、その人の息遣いとか、体温とか、重さ、匂いとか、生身っぽさがなくてね。

(あ、生きている人ではなさそう)

それはさすがに解ったの。

それでその人はね、私が見ている事に気付くと、でも、別にこちらに襲い掛かってくるわけでもなく。

ただ、苦しむ旦那の首から手を離すと、

「バイバイ」

って感じで、無表情のまま私に片手を振ってから消えたの。

何だか見覚えはある気はするのに、どうしても思い出せなくて、私はそのまま寝てしまった。

もしかしたら、気を失ってたのかも。

朝に起きたら、旦那は先に起きててさ。

もうベッドに腰掛けて、こちらに背中向けてスマホ見てたから。

心底安堵して、

「おはよ」

って声を掛けるのと同時に身体起こしたら、物凄くびっくりされたの。

そりゃびっくりするよね。

振り返った旦那は変に慌てて、スマホをベッドの上に落としたんだけどさ。

落ちたスマホの画面の中で、旦那は、早くもね、新しい浮気相手と、

「早く会いたい(ハート)」

的な朝の挨拶を交わしていたんだから。

それで、

「あっ」

って思い出したの。

仲直り旅行の最中に、旦那にもう新しい相手がいたショックよりも、何よりも。

(あぁ……そうだ)

夜中に旦那に馬乗りになって首を絞めていたのは、

「私」

だった。

そうそう、あの時の離婚の原因。

理由はありがちな旦那の浮気だったけどね、あれがなかったらさ、また、なあなあにね、きっとほだされてた。

好きだったから。

それで、きっと、ずるずる浮気を続けられる結婚生活を続けてたかもしれないから、良かったよ。


「ドッペルゲンガー的なものかしら?」

「まだ子供いなくてよかったわよ」

「ホントホント」

と一通り盛り上がってから、最後の私に視線が集まった。


そうなの。

皆の話を聞いていたら、私も思い出したの。

最後なのに一番大した話じゃなくて、申し訳ないんだけど。


先日、今年で20歳になった娘が、友達とお酒を飲んできたのよ。

ね、ホント、あっという間よ。

そしたら、家に帰るなり、

「今!!そこの煙草屋の近くで!長い黒髪に白いワンピース着た若い女の幽霊見ちゃった!!」

って騒いでて。

「ただの黒髪の白いワンピース姿のお姉さんかもしれないじゃない」

と返したら、

「手ぶらでスマホ持ってなかったから幽霊だと思う!」

って返されて、

「おー……」

なるほどねって凄い納得した。

今の子はスマホのあるなしで、

この世の人、あの世の人

を判断するのね。

みんなもそこに感心してたわ。

それで、その数日後にさ。

会社の飲み会で、とっても久しぶりに飲んだ帰り道に、娘が話してた、煙草屋と電柱の間に、裸足に白いワンピース姿の女性がいたの。

まさに、

「あ、この人ね」

って感じの人。

「あらあら、確かに幽霊だわねぇ」

って、もうね、いかにも幽霊でございって雰囲気醸し出してて、そこでよ、私、やっとこさ思い出したの。

我が家の母方の家系、特に女。

お酒を飲んだ時だけ、霊感のアンテナがぴったり合ってしまう体質でね。

そう、お酒が入った時だけ、人でないものがバリバリに見えてしまう性質だったのよ。

特異体質ね。

元々あまりお酒好きじゃないし、本当に久しぶりにお酒飲んで、飲んでない理由を思い出したわ。

もー年って嫌ね。

って、笑いながら娘に話したら、

「そんなハズレ体質イヤー!!」

って叫ばれたけど、そうよね、ママもいやよ。

久しく飲んでなかった理由を思い出したわ。

まんまとね、娘にも遺伝してたの。


「えー?そんな体質あるの?」

「まぁお酒好きなら慣れるわよ」

「何でも忘れる年よねぇ」

とね、話は記憶力の低下の恐怖に移りつつ。

私の話で、場をそう盛り下げることもなく済んで、ホッとしつつも。


私は、そう。

ただお酒が好きでないだけでなく、家で飲まない理由も、ついでに思い出してしまった。

あの日は、娘は慣れないお酒で早めに寝てくれて、視えていなかったみたいだけど。

娘に、早く家から出て行って欲しくなったら、家で、お酒を飲ませようかしらね。


きっと「あれ」を視れば、次の日にも、家から飛び出して行くわ。



見え方、四者四葉。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
もしくは類友(笑)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ