花よ、花よ、永遠に。
——殺った、殺った、殺ってやったぞ!
クソッタレの魔女が!ざまぁみろ!本当は嬲り、苦しませてから殺してしまいたかったぐらいだったがまぁいい!
おお、妻よ、息子よ、そして同胞よ私は果たしたぞ!
お前達の死は無駄ではなかった!
男は勝利の雄叫びを上げた。そこには確かに剣に脳天を貫かれ、石壁に横たわる魔女がいた。手は力なくぶら下がっており、瞳は虚ろに黒い。そこには生気という生気は感じなかった。
…男はひとしきりに喜び、そして今度は魔女の顔面を蹴った。
魔女の体は床に横たわる。
蹴る殴る蹴る殴る。特に顔面を。苦しませずに逝かせてしまった口惜しさを代わりに満たそうとしたのである。
もはや男には死体嬲りを恥じる様なことはなかった。これが男の復讐劇であり、報酬であるべきなのだ。
男の手が、足が、血に塗れる。そんなのはどうでもいい。勝者だけが許された甘美を味わおうではないか!
ああ、もう魔女の顔が分からなくなってしまった!このまま潰れろ、潰れろ、潰れてしまえ!
「あは!!あはははははははははははは!!!!!!!」
………………………………ああ、最っ高だ。
——————日が沈みかけた頃、ようやく男は去った。
「ガルルルルルル………」
息を潜めていた狼が現れた。狼といえどもその姿は植物に侵食されたようで、身体中から花が咲き誇っている。
狼はもはや魔女なのか分からない顔のそれに近づき剣を抜く。
「グラルルル」
じっと見つめる。変化が訪れるまではすぐだった。
傷ついた部分は沸騰した様にボコボコと蠢めいた。骨が、筋肉が、臓器が蔦となり花となりそして再び人らしい姿へと回帰する。いわば超再生。あり得る事のない人智を外れた現象。
「がふッ!……ごほっ、ごほっ………」
———そして、その御尊顔が認識できるほど回復した。しかし、苦悶の表情を浮かべている。それでも……
「…ありがと……」
「グルルルル」
まずは礼を言う。この方はそういう方なのだ。
「ああ……久しぶりに死にかけたよ…死にはしないんだけどね」
彼女は完全に回復するとすぐさま立ち上がった。
「さて……仕事を続行しようか」
彼女の手には種があった。死んだ生物の体を蝕み、やがて神経から記憶まで掌握する…………そう、この花の狼の様な異形を生み出す災禍の種。
記憶を掌握する…それは本人になりきるということだ。いや、それが本人と自覚するのであれば最早本人であるのかもしれない。その認識を許容するのであれば……………
——————死からの蘇生と言えるのではないだろうか。
殺した男の仲間に一つ、種を落とす。
地面から幾つもの手が生えた。人の花の異形が這いずり出てくる。
男が見れば真に発狂するであろう。何故なら……
妻、息子、その他諸々の村人。……それだけには留まらない。彼女が魔女と呼ばれる由縁。
一国の人々が花園を生み出した。仲間の歓迎である。
—————彼女が目指すは全生物の【花化】。
それが死者を歪に蘇らす黒魔術と呼ばれても…それが生者への冒涜であっても………。
(かつて、私が死別に囚われていた様に…)
そうなって欲しくないのかもしれない。
本人にも分からない、醜い優しさ。
———また…………一人殺した男に花が咲いた。
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