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ツァーンラート・オブ・シャウム  作者: 永城 樹
第1章:王都出発
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2、どういたしましょう?




 ──ばさり⋯⋯っ



と、何かが落ちる音が聞こえてくる。

 ポニーテールを解き、短剣で髪を切る。ロングヘアであった髪は、ミディアムのボブとなった。

 切った髪は、グレンツェがいる、ソファの後ろにぱさりと落ちていった。

 顔を横に振り、どのくらいになったのかが首に当たる髪で伝わってくる。

 ⋯⋯昔のリーリエならば、この切った髪を【火炎魔術】で燃やすことは可能であった。けれど今は、“魔力暴走事件”を起こしてないため、魔力をコントロールすることが難しい。



(⋯⋯ひとまず置いとこうかしら?)



と、疑問に思いつつも決断する。

 リーリエ・シュテルンとして、人生はこれで終演。そしてこれからは普通の“リリィ”として生きていく。


「切ったな。“リリィ”。いいじゃん、似合ってる。」


グレンツェは、後ろから隣に来て座りニヤリと笑みを見せながら、褒める。何事も面倒くさがりのあの“グレン”がだ。

(明日は槍でも降ってくるのかしら?)

と、リーリエは縁起でもないことを思っていた。


「ん、あんがと。ん〜さて、どういたしましょう?」


 まぁ、“グレン”のことは置いといて、今後どうしたら離れることを実行できるのでしょう。


「あっ! これはどう?」


 “グレン”は、突然大声を出してよい提案だという顔をする昔と変わらない笑顔豪快な笑みを見せてくれる。


「これ、とは?」


 魔術で頭の中見ること昔は出来た。だか、今はまだ“魔力暴走事件”がおきてないためか強い魔術は使えないのだ。

 ヘタしたら使えるのでしょうけど、魔塔に感知されてしまう。

もう二度と戻りたくない、と思うあの場所に。


「普通に置手紙書けばいいじゃんよぉ? 主人」



置手紙?




【置手紙】

意味:用件を書いてその場に残しておくこと、またはその手紙のこと。




つまるところ⋯⋯



「紙に

『虐められてお辛いし、義妹が当主となるとお聞きしたのです。そのためあたくし、リーリエ・シュテルンは外の世界を知ること決意いたしました。ですので、旅をしていきます。探さないでくださいませ。』

って、書けってことよね!? 達筆で書けばよいのかしら? 否でも、あたくしは未だ8歳よね。お母様がお亡くなりになって、三年しか経ってないのよ。義母からは、いびられてたし⋯⋯」


 リーリエは、ブツブツブツブツと何時もの前世からのクセが出ていることを気付かず、親指を下唇に当てながら唱える。


「なぁ、リーリエ、オレは?」


「へ?」


 思考の海に潜っていたためがそこまで重要ではなかったため、咄嗟のことで呆気ない声を出してしまった。そして、顔をグレンツェの方に向ける。


「オーレーはー? 一緒に行ったらダメ?」


 グレンツェは、瞳をきゅるるんと見つめながら聞いてくる。

 なんと!! グレンツェが!! ぶりっ子で!! 尋ねてきた!! 

 普段感情を見せない冷徹な執事だからだろうか。



(ひえぇ、得体の知れない恐怖があたくしを襲ってきますのよ⋯⋯。)



「えぇそうですね、もも、勿論ですわ! グレンツェ、アナタも元にいきますわよ!? 雇用主は、あたくしなのよ!」


「⋯⋯」


(慌てながらも弁解しなくては⋯⋯! いけませんわ。)


と、リーリエの思考は一点に集約していた。

 しかし、グレンツェの反応がない。反応がないとこの先のこと決められないのに。

 しかも、何故リーリエがグレンツェに家を出ようとしたのを話したと思っているのか? 答えは一つ。一緒にこの家から出るためだ。


「な、なぁ。主人。」


 沈黙が続いたため、恥ずかしいからか分からないけど、顔面がのぼせたように熱くなってるグレンツェはリーリエに問う。


「なにかしら?」


 リーリエの頭の中は疑問符がいっぱいになっていた。そのため早く教えて欲しいと思った。


「心の声もれてるぞ。」


 吃驚して、頭の中が疑問符と感嘆符が並んでいる。な、なんだって!?


「無自覚なんだな。主人。」


 リーリエは、いたずらっ子のような笑みを見せないで欲しいと願う。

 可愛くて照れてしまうかもしれないからだ。


「うぅ、恥ずかしいこと言わないでくださいまし。⋯⋯ってこうしては居られませんわ!

 そうね、この義母に支配されている伯爵家から離れるのは置手紙を使うことにしましょう!!」


 ソファから勢いよく立ち上がってバンッ! と大きな音を出しながら机を叩く。

 そして、多分キラキラとした瞳をしながらグレンツェを見つめて、言った。


「ん〜りょーかい。で、どうするだ。」


 リーリエは、グレンツェをやっぱり頭が良い方なのかなぁと思っている。


「どうする⋯⋯とは、なんでしょうか?」


 リーリエの口は、出来がいいかもしれない。なぜなら、考えていることと別のことを答えたからだ。


「ってもよ、ここ伯爵家を出たら何処に行くんだってことだよ。」


 じどっと見つめてくるグレンツェ。髪を結んでいるのに如何してこんなにも美しいのだろうか?


「はっ! も、勿論覚えておりましたわ! 一応決めておりますのよ!」


 リーリエは別のこと(グレンツェが頼もしい)を考えいた。いけない、いけない。

 また、慌てながら弁解するリーリエをじっと、という目つきで睨みつけてくるグレンツェ。


(わぁー⋯⋯あたくしがそれ好きじゃないの知ってますよね⋯⋯。)


と、じっと見つめられながら思っていた。


「何処考えてるの? まさか教えないってことはないでしょうに。なぁ、主人?」


 グレンツェは、語尾に疑問符つけてるのに断言されちゃってる言い方だ。


「北よ! 北!」


 リーリエは、強制的に言わされる苦しみを結構体験した事あるので(もちろん、前世で)、ドヤ顔をしながら言葉を発する。


「へぇ〜? 北ねぇ、どうしてなのかを教えてくれるます? なぁ、リーリエ・シュテルン。」


 リーリエは、思わず(あ、やっちゃった。やらかしてしまいましたわ。)と、考えてしまった。

 リーリエは、汗がどばどば、滝のように流れても仕方ないぐらいやらかした。

 グレンツェは、基本的には口調は丁寧。貴族? と思われてもよいぐらいにだ。リーリエに対してはぶっきらぼうな言い方する。リーリエに対して口調が荒くなるグレンツェが、リーリエに対して丁寧になったらどうなるのか? 


  答えは────キレている⋯⋯だ。


 そのため、穏便な選択肢をしなくてはならないリーリエ。大丈夫だろうか? 最初から詰むとは考えたくない。

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