1、思い出した記憶
初連載です!
上手く出来ていますように⋯⋯!
突然のことで訳が分からず、重力によって真白な絨毯に叩き付けられる。
「う、ゔぅ。」
唸りながら、何とか顔を彼女⋯⋯弟子の⟬トレーネ⟭の方へ向けた。
その間にも、真白な絨毯は私の傷口から流れゆく深紅によって赤く、紅く染まっていく。
「⋯⋯ごめんなさい。ししょー。アタシだってこんなことしたくありません。」
ぽつり、ぽつりと、彼女の心が落ち着く桃色の水晶のような瞳から雫が零れ落ちる。そして、吹雪によって、彼女の美しい金髪が風でなびく。
────あぁ、この手が彼女に届くのならば雫を親指で払ってあげられるのに⋯⋯。
動きたくても躰は、手をあげるだけで精一杯。虚しい思いだけが積もってしまう。
彼女の手には、私が彼女の弟子となった記念に渡し、その数日後には無くしたと告げられた、きらきらと煌めきを帯びて、鮮やかな真紅色に濡れ染まったつるぎが握られている。
「ふふ、如何してこんなことをしたんだい?」
はぁ、はぁ、と息絶え絶えになり、視界がぼやけ始める。だがしかし、口調はいつも通りに。
「ごめんなさい⋯⋯。ししょーが【回復魔術】を、不得意に知っててやったのですから。恨むならとことん憎んでください。
ずっと、ずっーと慕っていおります。これからもこれまでも。永遠に。〝泡沫の魔術師〟リーリエ・シュテルン様⋯⋯。」
途中から聞き取れることも無く────⋯⋯。
視界が暗闇へと反転した────。
◇◆◇
泡沫、それは儚く消えやすいもの。
記憶や信頼、命⋯⋯気づいたらパッと消え失せる。
何故、泡沫について説明したかって? それは⋯⋯わたくしが肌で感じたからよ。まぁ! 今はもう、どうでもいいのですがね⋯⋯。
気分を上げるため、ベットからソファにのろのろと、歩きながら座る。
嗚呼、忘れておりましたわ。わたくし、リーリエ・シュテルンと申します。以後お見知りおきをなっさってくださいまし。
さて、自己紹介は置いといて⋯⋯今の状況を整理しましょう。
数日前謎の高熱を出し、前世(?)の記憶を思い出したところなのです。そして、わたくしが困惑していることは唯一つ⋯⋯一番弟子であるトレーネに、後ろから思いっきり背中を刺された⋯⋯ということです。そしたら、8歳の頃に戻っていた⋯⋯ということなのですが⋯⋯不思議です。わたくし【危険魔術取扱禁忌階級一級:時空遡行魔術】を使用した覚えなぞありません。────はて? どう云うことなのでしょう?
考えを纏めるため、頭をフル回転で回し、前世からのクセである、親指を唇におくことを無意識に行っていた。
死んだ状況は覚えてますが、その後どうなったのかなんて記憶にないのですわ。今8歳の頃ということは、死に戻ったのかしら? それとも、転生? いやでも、転生なら、別の躰の筈だから────⋯⋯意味が分からないですわ。
いや、わたくしは確か別の世界で⋯⋯? ってあれ?何を考えておりますの⋯⋯わたくし。
余計のことは考えないようにして見ると、まだ【危険魔術取扱禁忌階級一級:時空遡行魔術】の可能性が高いわね。
【危険魔術取扱禁忌階級特級:回帰魔術】や【危険魔術取扱禁忌階級特級:転生魔術】は考えたくありません⋯⋯。【危険魔術取扱禁忌階級一級:時空遡行魔術】は宮廷魔術師の最高責任者と“異名持ちの魔術師”だけ使っても良い魔術。
然し、【危険魔術取扱禁忌階級特級:回帰魔術】と【危険魔術取扱禁忌階級特級:転生魔術】はこの国の為に力を貸してくれた“神話の魔術師”────⟬アーディ⟭だけ使うことを許されている禁忌魔術である。そのため、選択肢はひとつに絞られるのだ!
蛇足なのですが、他にも禁忌魔術と呼ばれるのは【精神操作魔術】等が含まれることもありますの。
って、何を言っておりますの、わたくし⋯⋯。あと数ヶ月したら“魔力暴走事件”を起こしてしまいますわ。そしたら、魔塔に勧誘という名の軟禁されてしまいますわね。どうしましょう。
「わたくしが、最初から存在していないと感じさせられたら⋯⋯いいのでは?」
「主人! 何を考えているんだよ! 折角おれが来てやったというのに⋯⋯」
「あら、グレンツェじゃない。ごきげんよう。」
「へいへい、ごきげんよう⋯⋯って! アンタねぇ、そろそろ令嬢としての自覚持った方がいいんじゃねぇの?」
「⋯⋯⋯確かに。一理ありますわ。」
「はあぁぁぁぁぁぁぁ〜〜ッ。主人が変って知っていたら、こんなことにならなかったのになぁ。」
ぽつりと、呟いたわたくしの究極の戦術にツッコミを入れた燕尾服を着て、ソファの隣に来た一人の少年。彼は⟬グレンツェ⟭という。グレンツェは元暗殺者で現執事。ちなみにわたくしよりも二歳年上なの。なのに、とても可愛らしいわ。
先程の会話は何時ものこと。ついつい、からかってしまうぐらい可愛らしいの!!
「ねぇ、グレンツェ。」
覚悟を付け、問いますわ。
「なんですか? 主人。」
ちょっぴり嫌悪感を感じるニュアンスをしながらも、ちゃんと聞き返してくれるグレンツェ。
「家出しようと考えてますの。一緒ににげません?」
前世、義母から植え付けられた貼り付けの笑顔を向けながら“にげましょう”と、提案するのよ。
「⋯⋯は? 既にネジが2、3本外れていたのに、更に数本外れたのか?」
突然、優雅な暮らしをしている主人から“逃げよう”なぞ、提案されたためか、真顔で“⋯⋯は?” とかほざがれましたわ。
そして、悪口が聞こえてきましたので────⋯⋯
「酷いわ!? 貶してますの?! まぁ、そうね⋯⋯その通りだと思うわ。」
つい、反論してしまった。でも改めて考えて見ると、わたくしは前世から変わり者扱いされてきた(主に顔を中身があっていない件について)ので、肯定をいたしました。
「あの主人が認めただと⋯⋯。はぁ、そうだな。いいぜそれ。乗ってやるさ。」
むっ、改めて言われてる嫌ですわ。⋯⋯おぉ矢張り乗ってくれるのですね。
「ふふ、グレンツェならそう言ってくれると思っていたわ。」
これは本心。
グレンツェは 心強い味方と なった。
「でもさぁ、髪色バレるくね?」
あっ、と言うように言われる。
「あっ、確かに。」
気付きませんでしたわ⋯⋯。
ぐたぐたになりながらも会話を進んでゆく。そして、先程の問題に直面してしまったのですわ。“髪色目立ちまくってる問題”に! 一番目立つ髪色⋯⋯という訳ではないのですが、まぁまぁ、目立つ色ですの。
私、リーリエ・シュテルンは、きめ細かい真白や純白のような髪色でポニーテール。瞳は、煌めきを帯びていると錯覚してしまいそうな琥珀色。首には、グレンツェの瞳と同じ色をした宝石、その周りに円が2つあるネックレスをつけておりますわ。
彼、グレンツェは、夜空を詰め込んだと言われてもおかしくない濃藍のような髪色でルーズサイドテール。瞳は、満開の藤の花を閉じ込めたようと錯覚してしまいそうな藤色。そして、何故か伊達メガネをしておりますの。
つまるところ⋯⋯顔面偏差値高すぎますの。自分で言っててなんですがね。
「ふふ、グレンツェ。短剣を貸してくださいまし?」
隣に居るグレンツェにお願いをする。
「な、何をするつもりだよ⋯⋯主人。まぁ、貸さないっていう選択肢が存在してないから貸すけどな。⋯⋯ほいっ!」
なんだと、云う態度をしながらもお願いを叶えてくれるグレンツェ!! 優しいですわ!! けど、投げるのはどうかと思うのですわ⋯⋯。
まぁ、わたくし? ポーカーフェイスできますので? 感情を見破らせない自信しかありませんわ!
「ありがとね。グレンツェ。
さて、“グレン”私は今から髪を解いてこの短剣で何をするでしょう?」
受け取った短剣をクルクルと回転させながらグレンツェとしてではなく、“グレン”にちょびっと尋ねる。
「⋯⋯へ? ちょっと待て待て。深呼吸をしよう。そうしよう。
すぅ〜はぁ、すぅ〜はぁ。よし。
“リリィ”もしかして────⋯⋯髪を切るとは言わねぇよな?」
慌てながらも深呼吸をして、わたくしの意図を読み取り“リリィ”の考えを答える。
「ふふ、そのまさかですわ!」
にこにこしながら肯定するのだわ。やっぱり、グレンツェは優秀なのよ。
「いいのかよ!?!? “リリィ”、後悔しねぇの?」
心配してくれるの? やっぱり“グレン”は優しいわ。
「わたくしはわたくしを愛しております。其れは、此れからもこれ迄も、変わりません。
ですので、わたくしは令嬢としてのわたくしを殺そうと思いましたの。
わたくしは、いいえボクは、これから令嬢としてのリーリエ・シュテルンとして生きるのでなく、只の“リリィ”として生きたいのです。」
あれれ? 途中で言いたいこと混乱してきたわ。伝わるかしら?
「⋯⋯⋯⋯つまり、令嬢として過ごしたいけど、息苦しいから家を出たいってことか?」
暫しの沈黙をし、わたくしがいいえ、ボクが考えてくれたことを言語化して教えてくれた。
「えぇ、その通りですわ。流石“グレン”!」
またもや肯定するのだわ!! 矢張り“グレン”とは一心同体ね!
「はぁ、分かったよ。髪を切って過去と決別するのか。いいじゃん、どちらの“リリィ”もオレの主人だからな。」
⋯⋯何嬉しいことをいってくれるの!? あらら? “グレン”の耳は赤く染まっているのだわ!
「ありがとう。」
笑みをみせますの! とびっきりのね!
─さぁ、夢を叶えに行きましょう─