(9)[エルガルド編]王宮
(other side)
次の日の朝。
ハル達男三人は甲が倒れた後に説明を聞かされ、協力を要請されていた。協力自体は頼まれなくても、こちらもその問題を解決しないと帰れないのでやるつもりだったが、そこで一つ問題があった。
それは、
「・・・まさか、甲にだけ何もかかっていないとは・・・」
こう言ってはなんだが、もともと甲の身体能力は高い。しかし、その説明の時に聞いていた限りだとこの世界においては平均と大して変わらないのだ。
「・・・まぁ、あいつのことだから何とかするんじゃね?」
「・・・確かに」
「言われてみればそうなんだがな・・・」
口々に祐二とニノ、ハルは言う。
「まぁ、取りあえずあいつは自分でどうにかするだろって事でいいよな」
「あぁ、今はそんなことよりこれからどうするかってことだよ」
ひどい言われようだが、実際そうも言ってられないので誰も何も言わない。誰が何も言わずとも甲のフォローをするつもりだからだ。
「・・・これから、どうする?」
「しばらくはここを動くことはできんだろう」
「そだね。何より情報が少ないし」
女子たちとも話し合わなければいけないだろうが、本筋はこちらで決めておいても文句は言われまい。そう考えての案だったが・・・。
「まぁ、妥協案としてはそこでしょうね」
「ふん、甲君なしでも少しはできるじゃないか、馬鹿トリオ」
果たして、却下されることはなかった。
「って、いつの間に・・・」
「始めからですわ」
こういう時リズは堂々と自分から言う。敢えてぼかしたりなんかはしない。
「それじゃ、しばらくはここの王女にお世話になるってことか?」
「そうだよ。って、間宮は聞いてなかったのか?」
「・・・ごめんね。長文覚えるの苦手な冬子で」
なぜか高瀬が謝る。
「まぁ、いいか。それじゃそういうことで、あとはアイツが目を覚ますのを待つだけなんだが・・・」
「・・・じゃあ目を覚ましても、誰もいないってのはなんのいじめだ?待ってた割には、ずいぶんな扱いだな・・・」
(other side out...)
目が覚めた。
(う・・・。ここは・・・?)
傷が痛むので、顔をしかめながら周りを見渡すとメルがニコニコしながら、こちらを見ていた。
「・・・なんだ、その顔は・・・」
「いやぁ、ご主人案外目覚めるの早かったね」
言うことはそれだけかよ・・・。
「と、そんなことよりみんなはどうしたんだよ」
先程周りを見渡してみたが誰もいなかったので尋ねてみる。
「さぁ?ついていこうかとも思ったけど、ご主人からそんなに離れらんないのよね」
せいぜい、十メートルかしらと首をかしげながら言ってくる。
「そもそも、なんで俺にしか見えないんだ?」
「力が弱まってるから」
「何の?」
「この世界の」
「は?」
えらく大きい話になった。
「もともと、この世界を救うために来たんでしょう?それなら、ここが危機に陥っていることくらいわかるでしょ?」
「それくらいは分かるが・・・具体的にどんなふうにまずいんだ?」
「そうね・・・。まずは、ベーシックに魔王がいるのよ」
「ホントにベーシックだな・・・」
「まぁ、一人じゃなく何人もいるんだけど」
「・・・・・・」
どこのRPGだよ・・・。
「次に世界のバランスよ。これを戻すには、かなりの労力がいるわ。それこそ全世界を回らないと駄目ね」
「・・・は?」
「この世界は・・・。一つではないの」
「あぁ、それなら知ってる。俺たちの世界の並行世界。同じ時間軸にありながら、位相がずれているため本来なら認識できない世界、なんだろ?」
要は、ラジオと同じだ。発信源は一緒でも、周波数が合わないと聞こえない。そう言うのと似たような感じだろう。
「それも正解。だけどね、世界はさらに分岐している。ご主人の世界に概念だけある生命の樹。それが、この世界には実際に存在している。普段は調停者がいて、それぞれの世界のバランスを保っているんだけど、それぞれの世界の魔王、もしくは魔の軍勢がその人たちを幽閉してしまっているの。だから、その人たちを助けなきゃ、帰れないわよ?ご主人」
その人たちが最後の力を使ってやっとこの下位世界に貴方達呼んだんだからそれがないと出れないのよね、とのたまう。
「・・・なんじゃそりゃ」
どうやら俺は・・・、俺たちはとんでもないことに巻き込まれているらしかった。
どうにかなるんだろうか?
「どうにかするんです」
・・・心の声を読まないでくれ。
「りょ~かい♪」
絶対わかってない、コイツ。
「そんなことより、あいつらと合流するか・・・。どこに行ったかくらいわからないのか?」
「? わかるけど、え~っと・・・」
そして、メルが言っていた場所に移動すると
全員が固まって何かを話し合っていた。
なんとなく疎外感を味わった俺は、いじわるっぽく
「・・・じゃあ目を覚ましても、誰もいないってのはなんのいじめだ?待ってた割には、ずいぶんな扱いだな・・・」
と言ってやった。
すると、俺からの返答は完全に予想外だったのだろう全員が固まっている。
そこまで、驚くか?普通。
「もう起きても大丈夫なのか?」
比較的軽度の驚きですんだのかニノがはじめに復活する。もっとも、こいつは驚いてるんだか驚いてないんだかわからないが・・・。
「全然OK!・・・っとはいかないな。若干まだ痛むな。けど、動けないレベルじゃないな」
「とても、そうは見えんかったがな」
今度は会長。しかし、この人も本当に驚いたのか?ノリで周りに合わせている気がしてしょうがないんだが・・・。
「・・・寝たら治るもんだろう?」
間宮、だからお前はどこの星出身だ。
「冬子、意味分らないよ。でも、早く目が覚めてよかったね」
「ま、そんなに長く寝ているようでしたらたたき起していますわ」
「病人に対する行動じゃないな」
「それはいくらなんでも・・・。ですが、お目覚めになられて良かったです」
・・・なんだか、暗に死んでもおかしくなかった的なことを言われている気がする。
「・・・あはは。ホントだよ」
・・・・・・アノ、ソノワライガトテモコワイノデスガ?神宮寺サン。
そんな風にいつものようにじゃれていると
パンパンッ
「皆さん、こんなところに居たのですね。父と母が話があるので呼んで来いとのことです」
突然、お姫様が乱入してきた。
『・・・・・・』
またもや全員が固まっている。(ちなみに、今回は俺も)
数秒の硬直の後、
『あぁ!』
「ひゃっ!?」
な、なんですか!突然!と姫様ご立腹。
まぁ、俺たちが固まったのは単純に自分たちがどこに居るか忘れていただけなんだが・・・。
「・・・忘れてましたわ」
ただ、まぁうっかり口が滑ったんだろう。リズがポロッと俺たちの総意を伝えてしまっていた。
「・・・はい?」
その直後にしまったという顔をして、顔をそらしたリズだがその行為が余計だった。
「・・・ずいぶんとお間抜けな方がいるようですね?あぁ、まぁいかにも抜けてそうな感じがしますもんね」
「・・・(ピクッ)」
「おや?図星ですか?」
「・・・・・・(ピクピクッ)」
案外この姫様も侮れないかもしれない・・・。にしても、相変わらず沸点の低い奴だな、リズは。
「うふふ、言わせておけば―――」
「はいはい。そこまでな、取りあえず人を待たせてるんだから行くぞ」
結局俺が爆発する前に止める羽目になった。
だって、全員の視線が保護者どうにかしろや、っていってるんだもん。まぁ、「くっ、覚えていなさい」で丸く収まったからいいもののいつもなら速攻でコンボを決められてること間違いない。
一応けが人だということを考慮してくれたのかねぇ?
・・・全く嬉しくないが。むしろ、普通にいつも投げないで欲しい。(コンボの最後には必ず投げ技が来る)
「・・・そうですね。お父様達を待たせるわけにはいきません。ご案内します、ついて来て下さい」
お姫様はまだなんだか言いたそうな顔をしていたが、ここでとやかく言っても無駄に時間を食うだけだと分かったのかすぐに怒気を引っ込めた。
まぁ、リズも殺気は引っ込めた。怒気は引っ込めてないんだけど。
*******************
「おお、よく来てくれた。そなた達が天上世界より来た使者の方だな?」
「まぁまぁ、こんなに大勢・・・」
歩くこと数分。(一人で歩いていたら間違いなく迷うな)
大広間のようなところに出るといかにも国王ですという感じの人とその隣にいかにも王妃という感じの人がいた。
え?他に説明の仕方があるんじゃないかって?だって、そのまんまだし。
まぁ、ともかく普通ならお目にかかれないご身分の方たちだ。
「君らには期待しているよ。いつも、どこからともなく現れては魔軍を倒すなどと言って結局逃げ帰ってくるものが大半だからね」
「仕方のないことでしょう・・・。我らではどうしようもないのです・・・」
そうだな、と言って黙ってしまう。
何か声をかけようかと迷っているうちに執事の格好をした人たちが
「王よ、そろそろお時間の方が・・・」
「お、おぉ、そうか」
何か予定が詰まっているらしい。
「ではまた、ゆっくりと話そう」
そんな感じで俺達と国王との初めての面会は幕を閉じた。
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各々の部屋に戻った後。
俺はルマリアさんの部屋を訪れていた。
理由は、一つしかない。武器の調達だ。
正直言って、剣は不得手ではない、むしろ得意とするぐらいだだが、盾を持っての戦闘はやったことがないからやりづらくてしょうがない。ので、近~中距離戦闘で使える『ボウガン』の入手を実は大広間までの移動時間の最中にお願いしていたので、それを取りに来たということだ。
コンコンッ
ノックをする。
「開いてます。どうぞ、お入りください」
「えっと、さっき頼んだものなんだけど・・・」
「あぁ、『連射式のボウガン』ですか。・・・・・・はい、どうぞ」
そう言ってどこからともなく取り出したのは、俺が頼んでいたものそのまんまだった。(本当にどこから出したんだろう?)
「消耗品についても、主との約束は取り付けてあります」
・・・抜け目のない人だった。頼んでもいないのに必要なことはすべてやってくれている。
「ありがとうございます。いろいろすいませんね、なんか」
「気にしないでください。貴方達の補佐が私の役目なので」
相変わらずのポーカーフェイスでそう言い放つルマリアさん。
「それよりも、ご自分の身を心配なさってください」
「・・・はい」
心配してくれいるのはよく分かるんだが・・・。もうちょっと、それらしい表情をしてほしい。
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ルマリアさんにもらったレインアローは、仕込み刃がどうやら入っているようで若干、先端が重い。
「さてと、試しに撃ちたいな・・・。とはいえ、こんなところでバカスカ撃っていたら、矢がもったいないからな」
何処かにいい場所はないかと、そのあたりをうろついているとまるで狙ったかのように、某ウィリアムテルのようにリンゴを頭に載せた状態で会長がこちらに向かってきた。
「・・・あの人何してんだ」
まぁ、格好の的であることには間違いないんだが・・・。たまにあの人の行動の要因が分からない・・・。
「・・・考えてもしょうがないか。それに、あの人なんだかんだでずれてるし」
そう結論付けて会長の頭のリンゴを狙い撃つ。
カシュンッ!
ドスッ!
きゃぁ!?
それにしても、なんだかものすごく聞いてはいけない悲鳴を聞いた気がする。
結構高い威力があると印象を受ける音だ。
当然だが、俺は隠れている。さすがの会長も固まっているだろうし、そう簡単にはばれないはずだ。
だが、俺のこの楽観的予測は容易く打ち砕かれる。
「・・・甲君。どうやら君は起きぬけに、いきなり私と戯れたいと見るが?」
ばれてた。
しかも、ものすごい笑顔でこちらを見ていらっしゃる。
さらに、いつの間にか背後を取られてる。
やっぱりこの人得体が知れない・・・。いったい、どんな親に育てられたんだ・・・。
「ふっふっふ、実は先程少しイライラする出来事があってな。ストレス発散できる対象を探していたんだが・・・、自ら現れてくれるとは何ともありがたい」
・・・ゾクッ。
あれ?なんだか冷や汗が止まらないうえ、気のせいか寒気が・・・。
「あ~、調子がまだ悪いみたいなんで・・・。この辺で―――」
そう言いながら全力疾走し始めたはずだったが・・・
フワッ。
奇妙な浮遊感と共に天と地がひっくり返って、背中からたたきつけられた。
「ふははは、逃げない逃げない。何、悪いようにはしないさ・・・」
「わ、悪かったですって!ちょっとしたジョークのつもりだったんです!」
命の危険を過剰なまでに感じ取っていた俺は、とっさに言い訳するものの聞く耳を持ってもらうことなどできるはずがなく・・・、あっさり連行されてしまった。
その後、どうなったかは思い出すだけで鬱になりそうなので記さないことにする。
うぅ・・・。
「くそう・・・」
「何か言ったかい?」
「・・・何でもないですよ」
会長からお仕置きを受けてから数分後。
突然、この王国の近衛騎士だと言う人が来て王女が呼んでいるので案内するとのことだった。
「そう言えば、まだ名乗っていませんでしたね。私はコルジュ国王女直属近衛騎士団の団長、エルベ・カーネリクスです。以後お見知りおきを」
「あ、どうも・・・」
・・・なんか、今おかしなことを言わなかったか?さっきは、言い忘れたがこの人はどこからどう見ても女性だ。
「いや、えぇっと・・・あなたが・・・騎士団長?」
「信じられませんか?」
「・・・えぇ、まぁ、正直なところ」
「仕方ありません。自分で言うのもなんですが、合っていませんし・・・。それに元々はもっと風格のある人だったんです。けれど、大戦が起きた時に、たったの一夜で近衛騎士の約半数が、兵士の8割が行方知れずになってしまったのです。私達は必死に行方を捜しましたが・・・、ついに見つけることは敵わず・・・。それで、新たに志願を募って集められたのが今の軍隊です。これが男はそもそもこの国にはもうほとんどおらず、女の方が多い理由です。そして、私が騎士団長になった理由でもあります」
つまり、人員の不足。
気になるのは、どうして一斉に男が消えたのか。いくら魔王でも一夜で消せるほどの力は持っていないだろう。
「・・・今、考えてもしょうがないか」
俺はそうつぶやくとエルベさんに従って歩いて行った。
歩いて行く途中で気付いたが、確かに圧倒的に男の数が少なかった。特に騎士、衛兵は俺があった九割が女の人だった。執事の人は確かに男の人が多いが、それでも二十人弱しかおらず戦えそうな人は数人だ。
王女の部屋に着くまでにエルベさんからはいろいろ話を聞いた。
今の状況、この国の位置、どのような敵がいるのかなどだ。
(・・・もうちょっと色気のある話はないんですか~?)
エルベさんには見えていないのだろうが、俺の左隣(右にはエルベさんがいる)にはメルがいつの間にやら霊体化しており(なんといっていいかよく分からないので便宜上こう呼ぶ)、さっきからそんなことばかり言ってくるのだ。
(念で話してるんですから、全部聞こえてますよ?)
・・・だったら、少しは静かにしてくれ。
(はいは~い。まったく、主はつれないですね・・・)
心の中でメルとも会話しながら王女の部屋に向かうのだった。
後書きは今回短めで行こうと思います
甲「なんで・・・」
考えるのがきつい・・・
甲「本格的始まった大学のレポートで忙しいだけだろ?」
・・・ノーコメントで
甲「一見、否定しているようでそういう反応は肯定と一緒なんだよな」
・・・何とでもいえ
葵「短くいくんだったら、もっと巻いたらどうだ?もっと短くなるぞ?」
甲「そうっすね。ところで、葵って誰だっけ・・・」
会長だ
甲「・・・・・」
葵「甲君、君は本編でも後書きでも私とそんなにスキンシップがしたいのかね?」
メル「ちょっと~、私の主さまに何をしようと」
甲「だ~!!お前がここで出るとややこしいだろ!!」
葵「・・・気でも触れたか?甲君」
あ、いうの忘れてたけどメルが意識して念を送らないと声すら聞こえないから
甲「つまり、今のは俺が突然会長に怒鳴ったと?」
そうだ、俺は作者補正で全部聞こえるし、見えるが・・・
葵「・・・見える?」
・・・そんなさげすんだ目で見るな!そういうのは見えてない!
メル「・・・大変なんですね作者も」
他人事だな・・・
メル「まぁ、そんなわけで・・・主がかいちょーに用があるとか言われて強制連行されたので補佐は私がやりま~す」
・・・不安だな
メル「まぁ、たまには気分転換も必要じゃない?」
そうか?
メル「そうよ」
まぁ、いいけどさ・・・。次回には戻ってくるよな?
メル「多分ね」
・・・不安だなぁ・・・
メル「来週になったら、主人公交代だったりして・・・」
笑えない冗談はやめろ。そんな風になったら俺が死ぬ
メル「どうして?」
伏線の張り直しが必要だろうが!
メル「伏線なんてあった?」
これから、つけてくんだよ!簡単なのなら一応二、三個ついてるけど
メル「そう?まぁ、いいけど。とりあえず今回はこのくらいですね。ではまた次回で」
あ。終わり方が普通だ・・・