(11)[エルガルド編]失ったもの
女剣士が消え去った数秒後。
ドゴォン!
轟音と共に上に乗っていた邪魔くさい瓦礫を弾き飛ばす。
「・・・しっかし、よく潰れんかったよな・・・。っと!そんなことより」
先程女剣士に切りかかるために横たえておいたメルに走り寄る。
「メル!」
「うん?なに?」
ズルッ、ビタンッ!
あまりの普通の返答に盛大にこけてしまった。
「いや~、思わず倒れちゃったけど・・・。実は当たってなかったのよね~」
「は?じゃあ、あの赤いのは?」
まさか、ケチャップとでも言うのだろうか?
「うん?ケチャップだよ」
・・・・・・。
「はぁ~・・・」
呆れ半分、安堵半分の溜息をつく。
というかなんでケチャップが・・・?某オタ○ンが持ってきたんだろうか?
ふと振り向くと、王女を揺り起こすエルベさんが見えた。どうやら向こうも大した怪我はないようだ。
「しかし・・・、誰も来ないな。これだけ騒いだ・・・というか、暴れたのに」
「・・・!まさか!」
一人つぶやいていると、メルが跳ね起きた。
そして、窓際まで駆け寄ると
「・・・やられたわ・・・」
「は?」
「・・・会長さん達、多分さらわれた」
「何をばかな・・・」
突然そんな事を言い出すメル。
それを笑ってやろうとしたところで伝令の兵士が入ってきた。
「報告します!先程、魔の軍勢と思われる者たちの強襲を受け、防衛にあたった兵士の半数が死亡。使者殿達は行方知れず。この現象はあの時と同じものではないかと!」
その場の空気が二つの意味で凍る。
一つはようやく見つけた希望が消えかかっていることに。
もう一つは友を一気に失ってしまったことに。
「・・・そんな馬鹿な・・・。あいつら、強いんだぞ?滅多なことでは負けやしないんだ。あのバカ三人だって、本気になったたら敵なしなんだぞ?」
「確かに使者殿たちは強かったです。しかし、突然現れた黒い球体に一気に飲み込まれてしまったのです。それこそ、何かをする瞬間すらなく・・・」
そう悔しそうに報告する。
「・・・ここでこうしていても始まりません。とにかく下に降りて、現状確認をした方がいでしょう。それに、まだ貴方がいる。希望は潰えてはいない」
俺の目を見て、そう言うエルベさんに取りあえずついていくことにした。王女は伝令できた兵士(これも女の人)が背負った。
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「そうか・・・。強大な魔力を持つ者たちの気配が、突然消えたのはそのせいか」
どうやら国王は魔力の反応で少し事情を把握していたらしい。しかし、俺の仲間達が消えたとは思わなかったらしい。
それによく見ると多少怪我を負っている。どうやら国王ですら前線で戦ったらしい。こうなると、もう誰にも文句は言えず、己の無力を呪うしかない。
「しかし、君が無事でよかった。一人でも助かってくれれば、まだ何とかなるかもしれない」
「どう言う事です?」
「実は今回の奇襲を仕掛けた者たちの中にこの世界の魔王の側近がいたらしい。そいつが何かをして、君の仲間を何処かに転移魔術で飛ばしたと推測しているんだ」
「・・・」
「こちらとしても、一刻も早く手を打ちたいんだ。今、妻とゲオルグが魔術の痕跡を探している。その結果次第だが・・・」
「あいつらを取り返すことができる?」
「そうだ・・・。だが・・・」
とそこでいったん言葉を区切り、
「酷なことかもしれないが・・・。おそらく別々に囚われていると考えた方がいいだろう」
やはり、奴らもそこまで甘くないという事だろうか。
「それにいくら、君でも今すぐ案内するわけにはいかない」
「なっ!なぜですか!!」
「あそこは魔窟だ。今の力ではたどり着くことすらできない」
確かにあの状態でほとんど互角なら、今の俺なら瞬殺されるだろう。
その言葉に何も言えなくなった俺は黙りこむ。
「だから、ここでしばらく過しなさい」
「はい?」
「この辺りでまずは戦いの基本を身につけた方がいい。しばらくは向こうも何もできないだろうからな。それに囚われた彼らも、黙って捕まってるなんて事もないだろう」
確かにあいつらの性格から言って、自分ひとりでこんなところぐらい抜けてやるぜ!とか普通にいいそうだが・・・。
「意義はなさそうだね」
「一番確実そうな方法ですからね」
「そうか・・・。まぁ、今日のところはもう休みなさい」
それから、王女の治療をしてくるというエルベさんと別れ、自分に割り当てられた部屋へは向かわず城の中を見て回る。
城の中は奇襲を受けただけあって、ボロボロだった。そこかしこに、倒れている兵士がおり、それぞれ治療を受けている者、瓦礫の下敷きになった者を助けようとする者、さまざまだ。
だが耳にするのは、どこへ行っても・・・
絶望
半数以上の使者を失ったことで士気の低下は免れないとは国王も言っていたが、これほどとは・・・な。
するとそこで、小さい子供が声をかけてきた。どうやら、リズに助けてもらったらしいが
「あ、あのね。あのおねーちゃんに、これ返してあげて」
どうやらリズからお守りとして何かを受け取ったらしい。
よく見ると、それは俺が初めてリズに会ったときに渡したクリスタルでできたアクセサリーのようだ。
了解したことをその子に伝えて、その場を去る。
今日は何かをするには、いろいろありすぎた・・・。
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あの後、一番落ち着く屋根の上に登りボーっとしているとメルが話しかけて来る。
(混乱するのは、仕方ないよ~。一気に友を失ったわけだし)
「混乱と言うよりも、何がどうなっているのかまだ理解できていないというのが正解だろうな」
(まぁ、突然だったしね)
「それに、連絡を取ろうにもその当人につながる人物が皆目居ないし」
(それが一番痛いわよね~)
そうルマリアさんも結衣も連れて行かれてしまったので、兼継さんにつながる人がいない。これは連絡が一切とれなくなってしまったことを指す。それが、何よりも痛かった。何かアドバイスをもらおうと思っても連絡がつかないのだ。更に消耗品であるボウガンの矢が補充できないのだ。いざとなったら作れば良いだけの話だが、このボウガンは特殊で大気中のマナ(?)を集めてそれを付加して、射出するらしい。そして、その魔術は兼継さんとルマリアさんしか知らない。つまり、今持っている矢を打ち尽くしたら、魔王と渡り合うことすらできない。何でも、魔王はその体の頑強さ、魔力の高さで通常の物理攻撃は一切通らないらしい。・・・なんだ、その無駄にハイスペック。
(にしても、まさか会長さん達がさらわれちゃうとはなぁ)
「まぁ・・・それほど強かったんじゃないか?」
(ん・・・今は気にしてもしょうがないですよね。主はとっとと寝てください)
「お前は?」
(意識共有してるんですから、主が寝ないと寝れないんですよ)
なるほど、と言いながら俺の意識は闇にのまれていった。
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【・・・汝は、何ゆえに我を封じ込めたのだ】
「・・・俺はただ、あんたにこいつを任せたかっただけさ」
【我は魔神ぞ。人の身でこの力を受け入れれば破滅を招くぞ】
「俺の息子だぞ?」
【だが、人だ】
「なら余計に・・・。いや、むしろ俺の器なんかよりもよっぽど可能性はある」
【? どういうことだ】
「よく聞かないか?人間は、無限の可能性を秘めた種であると・・・」
【まさか、貴様・・・。】
「そう言う事だ。子供の時に入れてしまうことにより、まだ作られる途中の器を大きくする」
【・・・よかろう。その役目、しかと記憶した。だが、良いのか?】
「いいさ。俺の息子なら、いつか自分から会いに来るだろ。んじゃ、任せたぞ我が友にして至高の魔神よ」
【心得た。またいつか相見えん事を願うぞ我が友にして、至高の――よ】
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「・・・・・・」
(? こ~んな、朝っぱらからどうしたんですか)
「いや、なんかオヤジっぽい人が出てきて、色々この時のために準備してきたような描写があってな」
言っている事が自分でも分からなくなって、考え込む。
そもそも、あれはいつの記憶だ?
(それってもしかしたら、主の記憶じゃないんですか?)
「主?」
そう言えばコイツ、あった時からずっと主呼ばわりしてくるけど一体なんの話なんだろうか?良い機会だから、知っている事を話してもらうのもいいかもしれない。
(主っていうのは、鮎川甲という魂を守るように取り巻いている力の事よ)
「それが?」
(そう、主の力であり主である証拠)
(ふさわしくない器だと主がそのまま砕いちゃうんだけど・・・。そうなって無いって事は貴方は認められてるのよ。だから、私の主でもある。そう言う事よ)
「前半は理解できたが、後半は理解できないうえに無理矢理感あふれてしょうがないんだが?」
(気にしたら負けでしょう?)
「・・・・・・」
なんだか釈然としないものが残ってしまったが、特に問題もないという事にしておく。
べ、別に怖くなったわけじゃないんだからねっ!勘違いしないでよね!
・・・なんか、ごめん。
「・・・今日って、何かあったっけ?」
(今日から特訓が始まるんじゃなかった?)
「特訓?」
(助けに行きたいんでしょ?だったら、戦闘経験と実力がないとね。私にばっかり頼られても困るし)
確かにそれはそうだ。あの後に聞いたことだが、どうやら五分から十分くらいしかメルが出てくる事は叶わないらしい。この世界ではなぜかメルの力の源である『神力』が、徐々に削られていってしまうので零になる前に戻るには、その時間が限度なのだ。
(いざとなれば、消えるの覚悟で戦えばいいだろうけど)
「勘弁してくれ。お前を取り返しに行こうとしたら、神にでも喧嘩を売らなきゃ無理なんだろう?」
(まぁ、神クラスだしね。階級だけなら。まぁ、邪神って感じだけど)
こんな事言ったら後でひどい目にあわされるかも・・・、といった事を後悔するような声が聞こえたが俺の中に居る事を忘れているんだろうか?
「当面の目標は、あいつらの救出だ。急に人数減って若干寂しい気もするが・・・、よろしく頼むぜ」
(言われなくても、主の命令とあれば)
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「では、今日は私がお相手しよう」
「・・・はい」
エルベさんが木刀を構えて、俺の前に立っている。
あぁ・・・、なんでこんな事に・・・。
事の起こりは、全て王女の一言からなんだよなぁ・・・。後、親バカな国王のせいだ。
そんなわけで、しばし現実逃避してみようと思う。
朝起きて、しばらくメルと話して朝食を食べた後、突然王女がものすごい勢いで突っ込んできた。
「・・・はぁっ!?」
とっさに抱きとめようとしたが、あまりの事態に体が追い付かずあっさりと倒れてしまう。それ以外にも、王女の頭が割と真剣に鳩尾に入っていたってのもあるけど・・・。
とにかく、話を聞いてることにした。
「昨日のお礼と、昨日伝え忘れてしまった事を伝えに参りました」
「・・・。何ゆえに、ヘッドバッドをかましながら?」
「・・・いえ、躓いただけなのですが」
なんというドジっ子・・・。
「おっと・・・。そんなことより、伝えたい事?」
「えぇ、先日貴方の正式な役目が決まりました」
「役目?」
なんだろう?何かやれとは特に言われたいないが・・・。
「鮎川甲、貴殿を本日付で王国親衛隊特務部隊隊長とする」
「・・・イマナント?」
「要は、対魔王軍の部隊の隊長です。魔王軍が攻めてきた場合に限り、全軍の指揮権限が貴方に移行します」
「・・・とてつもなく物々しい部隊っすね」
混乱が頂点に達してしまい、何が何だかもうよく分からなかった。
「つきましては、基礎体力とほかの兵の士気にかかわるので、エルベとけいこに励んでもらいます」
「・・・どぅぇええええええええ!!!」
こんな感じで、一体どんな繋がりが有ったのか分からないがエルベさんと稽古をする羽目になり、どうせなら試合形式で、という事になり現在に至る・・・。ホント、何やってんだろう・・・。
・・・超展開www
メル「自分でやっといてそれはどうなのよ」
・・・完全に主人公、乗っ取られたな
メル「コーナー名決めちゃって既成事実作ろうかなぁ・・・」
君黒いね。マントは白色なのに・・・
メル「人を見かけで判断したら痛い目に会うよ?」
・・・・・・・・・
メル「うん?どうかしたの?」
イヤベツニナニモ・・・
メル「なぜ片言・・・」
いや、ふとさパソコン見ながら自分に語りかけてるわけじゃん?この後書き
メル「まぁ、確かにそうだね」
・・・はたから見たらどうなんだろう・・・
メル「さぁ?今度録画して、みてみれば?」
・・・怖っ
メル「は?」
いや、つまり自分がネットやってるところをボーっとみるの?結構、周り静かな現状でだよ・・・?なにかの観察日記みたいになってない?
メル「あながち、間違ってないんじゃ?」
・・・・・・・・思考が負のスパイラルに入りかけてるからこれくらいにしておこう
メル「こんな作者を慰めてやらんでもないよ?という方はご感想をお送りください。よろしくね~」