第6話
「貴方がズウォレス軍から失踪して2年か。久しぶりだなシセル、それと……先代? とでも言えばいいのか……」
「ジジイで構わんぞ。もう儂は『ズウォレスの黒狐』じゃあないんだからな」
シセル達の目の前に現れた2頭の馬。
その背中に乗っているのはフロリーナとブラーム。
2人とも懐かしい人間を見るような表情をしているが……シセルは嫌悪も露わ、顔をしかめながら馬上のフロリーナを睨んでいた。
「……なんの用だ?」
「迎えに来た。シセル、貴方にはズウォレス軍に戻ってほしいんだ」
馬を降りて笑顔で語り掛けるフロリーナ、その言葉にシセルは大きくため息をついた。
「戦いに巻き込まれて、俺は多くの人間を殺した。その中には女子供も混ざってる。大麻に芥子に、薬も大量に使った」
「ああ、そうだな」
「ベルトムントとの戦争が終わってもう2年だ。2年経つ。だが俺は、いまだに戦場で殺した奴らを夢に見る。幻覚で目の前に現れることだってある」
静かに語るシセルに2人は目を伏せた。
「俺はここで暮らす。いつか村が元通りになるまでな。そのために俺は生きる」
「そうか……」
まるでシセルの心中を表現するかのように、雪が降ってきた。
そして二人はお互いに顔を突き合わせたまま、一言も話さなくなってしまった。
「……えらく雪が強くなってきたな。こりゃ積もるぞ。お嬢さんとお連れの人、家で泊ってくか?」
「そうさせてもらおうか。積もる話もあるだろう」
──ジジイ、余計な事を……
「いや、そのまま帰れ。あの家の主は俺だ。言う事は聞いてもらう」
きっぱりと拒絶の言葉を浴びせ、シセルはフロリーナ達に背中を向けて家に戻っていく。
「おいシセル! ……ああもう行っちまった。すまんな、家主があんなだからこの話は無かったことにしてくれ」
「仕方ない。今日はこれで帰らせてもらうよ」
そうしてもらえると助かる、老人はそう言い残すとシセルの後を追って家の中に入って行った。
「……寒いな、私たちも帰ろう。ブラーム」
「だな。けどあいつはどうするんだ?」
腕をさすりながら、フロリーナは馬に乗る。
「いずれ戦争になれば、無理やりでも徴兵するさ。あの男の名前はもう隣国には知れ渡っている。放置しておくのは惜しい」
フロリーナにとっては、あくまでシセルは大事な駒なのだろう。
「必要な時が来るまで、しばしの別れだ」
「了解だ。総指令殿」
フロリーナとブラームは馬を走らせた。




