第5話
夜、アーメルス村のあった場所、シセルは羊のいる草原に目を向けていた。
元々は建物があったその場所は今や羊の群れがいるだけ。
「…………」
シセルはかつての故郷を取り戻そうと戻ってきたが……当然村人は誰も戻っては来ない、来るはずもない。
ただただとても、とても虚しかった。
「おおいシセル、捕虜ほったらかして黄昏に行くとはいい度胸だなおい」
寝ていたはずだが、老人が建物を抜け出して毛布にくるまりながら出てきた。
「風邪ひくぞシセル」
「うるさいぞジジイ」
老人が差し出してきた毛布を突っぱねて、銀世界になった草原をシセルは歩いた。
「まったく、自分の身体の管理はきっちりしとけと教えただろうに」
「教わったのはもう大分昔だ。忘れてることだって山ほどある」
「師匠の教えを忘れるとはいい度胸だな全く」
シセルも特に付いてこいと言った覚えはないが勝手に付いてくる。
ーーもういい歳だろうにご苦労なことだ。
「師匠ね……弟子と自分の国に弓を引かなきゃ俺ももう少しはそう呼んでたかもな」
「仕方なかったってやつさ。儂も金をもらうには働かなきゃならんからな……っておいどうした? なんで止まる?」
適当な話をしながら少し歩いているとシセルが急に立ち止まった。
「なんだ? 何をみてる?」
「……馬だ」
「ああ?」
シセルが視線を向ける先に、老人も目を向ける。
遠くから馬蹄の音と共にこちらに向かってくる2頭の馬の影……
馬には誰かが乗っているようだ。
「あーあ……こりゃ見つかったな」
「ジジイ、弓はあるか?」
「持ってきてると思うか? まぁ、相手が野盗じゃないことを祈ろうや。ほれお前の剣」
「弓兵が剣に頼るなよ……」
今のシセルと老人は長剣で武装している。
相手が強盗や野盗だった場合、相手が馬に乗っている分一気に不利になるだろうが……
だが今ここにいる人間は全員元軍人だ。
素人の強盗程度なら問題なく対処できる。
ーー来るなら来い。
覚悟を決めて剣を向けるが……
「ん? おい仕舞った方がいいぞ。ありゃ……」
「……フロリーナ」
夜の闇の中、雪を踏み散らしながら見えてきたその人物に頭を痛める。
暗闇で月明かりを受けて輝く金髪、星のように輝く青い瞳、整った顔立ちの女……
フロリーナの姿が目に入った。
「帰ろう。家に鍵を……いや板を釘で打ち付けておくんだ」
「そんな時間ねぇよ。大人しく相手するんだなシセル」
馬蹄の音を聞きながら、シセルは空に煌めく星を見た。




