第4話
雪の降る正午……
一面銀世界のアーメルス村跡地、草原だったその場所は現在は牧羊地になっている。
そして一軒しかない木造の家の前では熊の毛皮を被った白髪の老人が薪割りをしている最中だった。
手にした斧は錆が浮いていて刃こぼれが酷いが……まあ短剣で四苦八苦しながらやるよりはマシだろう。
「おおいシセル! お前も少しは手伝ったらどうなんだ! そこのお嬢さんもな! じじい1人にやらせるのはどうかと思うぞ! 心が痛まないのか? おおい!」
ぎゃーぎゃーと家の中にいるシセルと、指が一部欠損しているトルデリーゼに向かって叫ぶ老人。
「言ってるぞトルデリーゼ。お前仲間だろ? 行ってやれ」
「お前が行ったらどうだズウォレス人。あれでも師匠なんだろう?」
髪を後ろで結んだシセルは炉に鍋をかけ汁物を作りながら、トルデリーゼは一切視線を動かさずに拾ってきた本を読みながら老人の言葉を聞き流す。
シセルがベルトムントの戦いの後ここまでこの2人を連れてきたわけだが……人間関係は良好とは言い難い。
トルデリーゼは誰に対してもこんな態度だし、老人に対してシセルは厳しい。
老人だけは仲良くしようとしているのか無駄によくしゃべるが。
「あーもうやってられん! 寒い!」
毛皮に雪をかぶりながら老人が家の中に戻ってきた。
背中に薪を背負って。
「全部終わったのかジジイ」
「安心しろお前等の仕事も残しといたぞ。ほらさっさと飯だ! 多少はいたわれジジイを!」
丸太をそのまま置いただけの椅子に座り木の机をたたいて食事の要求をする老人に、シセルは呆れた。
「お前たちは捕虜なんだぞ? 少しは考えて発言しろ」
「なにが捕虜だ。どっからでも逃げられるような家にほったらかしといて」
「…………」
老人の言葉通り、この家はどこからでも逃げられる。
柵も無いし、ベルトムントへの道もある。
雪は積もってはいるが気温も異常なほど寒いわけでもない。
「儂は裏切者だからベルトムントに戻れない。だからここに居るわけだが……トルデリーゼちゃんはなんでこんなところに居るんだ?」
老人がトルデリーゼに話を振ると、彼女はこう答えた。
「国がお前達に滅ぼされた、父も生きているか分からない。だったらまだここにいた方がマシだ」
「ああ、そう」
木枠だけの窓を見ながら、聞き流した。
「……シチュー出来たぞ」
「今日は美味く出来たんだろうな? 焦げた匂いが付いたシチューなんて御免だぞ」
「私のは少なくていい。生煮えだろうから」
「お前等な……」




