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元弓兵は帰れない。  作者: 田上 祐司
第一章 炎と灰の戦い
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第87話

 ルメール村は一瞬で敵味方入り乱れる乱戦となった。


 ズウォレス兵は腰の長剣を抜き放ち弓を捨てて応戦するが……


「こいつら強いぞ!」


「馬鹿野郎! 味方を斬るな!」


「邪魔だ!!」


 ズウォレス軍は完全に出鼻をくじかれ、まともに剣を振るえている者はわずかだった。


 多くの兵士が斬られ、突かれ、確実に数を減らしていっている。


「そいつを貸せ、フロリーナ」


「待て! やめろ!」


 フロリーナが手にしていた弓を無理やり奪いベルトムント兵に狙いをつけるシセル。


 ーーまともに力が入らん。


 放った矢はベルトムント兵に当たりこそしたものの、致命傷には至らない。


 続けざまに矢を放つ……だがこれも鎧に防がれた。


「フロリーナ様! 騎馬が突っ込んできます!」


「矢を放て!」


 矢の射程距離まで入った黒い騎兵、戦闘を走る彼に向かって矢を射かけた。


「よし落としたぞ!」


 馬に見事命中させたズウォレス兵が歓喜に満ちた声を上げる。


 だが今騎馬の方を攻撃しても、殆どは空の馬。


 意味は薄い。


「村に入ってきたベルトムント兵を優先しろ! 味方に当てるな!」


 自身も剣を抜き、ベルトムント兵目掛けて突進していくフロリーナ。


 夜の闇の中で剣戟と悲鳴が木霊する。


 居る者は全員戦わなければという状況であったが……シセルは殆ど動けないような状態であった。


 足の傷が開いて、巻いている包帯に血が滲んでいる。


 ーーああ、負けるのか。


 心の中でそう考える。


 近接戦闘で化け物じみた練度の『人狩り隊』を相手に出来るわけがない。


 実際ズウォレス兵が倒した兵士の数より、『人狩り隊』の倒した兵士の方が数が多いのだ。


 放っておけばこちらがいずれ全滅して終わる。


 ーー冗談じゃない。


 シセルはズボンのポケットの中をまさぐる。


 中にあったのは小さな丸薬……阿片だ。


 ーーまたこいつに頼るのか。


 口に含んで嚥下する。


 効果が現れるのはもう少し時間がかかるはずだろうが、不思議とシセルの四肢に力が入り始めた。


「掛かってこい!! 俺がズウォレスの黒狐だ!!」


 叫びながら力任せに引いた矢を、敵目掛けて射かける。


 当たりはした、鎧も射抜けた、傷も与えた、だがベルトムント兵は止まらない。


「ベルトムントの誇りと意地を見せてやれ! 自分たちが家畜と同じということを教育してやれ! 主に逆らった犬を調教してやれ!」


「奴らを羊の群れと思え!! ベルトムント万歳!!」


 勢いずくベルトムント兵。


 このままズウォレス軍は終わってしまうのか?


 その場に居るズウォレス兵が誰もが思った時だった。


「止まれ!! 止まってください!!」


 戦場の真ん中、怒号と剣戟の音が響く場所に全裸で現れた男が声の限り叫んだのだ。


 そしてほんの一瞬、一瞬だけその場にいる全員が動きを止める。


「ベルトムントはシャルロワの手によって落ちました!! この戦いで勝っても帰る場所はない! 今すぐやめるべきです!!」





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