第83話
フロリーナが案内されるままブラームと共に兵士についていくと、柵と堀で囲まれた村の入り口にズウォレス兵達の人だかりが出来ていた。
そしてズウォレス兵達は皆一様にある一点に視線を注いでいる。
「あれは……シセルか? だが……」
ズウォレス兵に囲まれ、槍を向けられながら笑顔を浮かべる白髪の老人がいた。
そして彼の背中には包帯を巻いて意識を失ったままの黒髪の男……シセルが背負われている。
全く状況が呑み込めない。
「どうなってる? シセルは一体なんであんな状態に? おいフロリーナ!」
「道を開けてくれ!」
戸惑うブラームを置いて、囲んでいる兵士を押しのけ急いで老人に駆け寄るフロリーナ。
「シセル!」
「おっとそこで止まってくれ」
近づいてきたフロリーナに老人はにやにやと笑いながら話しかける。
気を失ったままのシセルの首に短剣を突きつけて……
「貴様ッ!!」
「悪いがこっちも色々余裕がないんでな。話を聞いてくれるかい? お嬢さん」
「で、ベルトムント軍の情報とシセルの身柄と引き換えに自分の身の安全を保障してくれと?」
「その通り。ああシセルを手当てしてやったのはタダにしておこう」
かろうじて無事だったルメール村の建物の一つに兵士達と共に移動したフロリーナと白髪の老人。
兵士を近くにおいてフロリーナは立ったまま、老人は木枠だけの窓に腰掛けて革袋の中の液体を飲んでいる、多分酒だろうが。
「情報を吐いたら胴体と首がお別れってのはやめてくれよ」
「情報次第だ」
正直な話、今ここでこの老人を殺してしまってもなにも支障はない。
シセルは先ほど老人から受け取って今はズウォレス兵達に世話されているし、あとは情報を吐いてくれれば用済みだ。
それでもこうして老人を生かしているのはフロリーナが気になることがあったからだ。
ーーなんでこの男はこうも落ち着いている?
この老人がベルトムント兵なのは間違いない、当然ズウォレス兵が現在民間人やベルトムント兵にしている行為も聞いているだろう。
だが彼は怯える様子も無いし、落ち着き払っていて特にフロリーナを警戒している様子もない、控えている兵士を気にする素振りもない。
自分の家でくつろいでいるかのように落ち着いている。
「さあてどっから話したもんかな……そうだフェーンにいる兵力を教えてやろう。それならどうだ?」
「話してみてくれ」
「まずはーー」
ぽつりぽつりと、老人は話し始めた。




