第82話
フロリーナがルメール村に帰還した時、空は既に朝日が昇り始めていた。
「シセル……」
「フロリーナ様、大丈夫。シセルさんならきっと戻って来られる」
周囲の兵士達が手当をしてもらっている状況の中、落ち込むフロリーナのそばに居た兵士は声をかける。
とはいえ本人は上の空、全く聞こえてはいなかった。
「フロリーナ様! 中部の部隊です! 到着しました!」
「なんだと?」
ようやく元に戻った。
兵士に案内されるがままにフロリーナは村の南側に歩いていく。
少し距離は離れているものの、確かにルメール村へと向かってくる一団があった。
腕に巻かれた赤い布……というかズウォレスの旗もおぼろげではあるが確認できる。
ーーたった一日、たった一日待てば被害は防げたのか。
「ん? 何か騎馬が来ますね……あれは……」
伏目がちになっているフロリーナが、促されるままに視線を向ける。
向かってくる中部のズウォレス軍とは別に一騎の騎馬がルメール村目指して全力疾走してくる。
腕のズウォレスの旗から察するに敵ではないようだ。
「あれは……ブラームだ」
「え? 確か南部に留まると……なにかあったのでしょうか?」
徐々に近づいて来るブラーム、よく見れば後ろに誰かを乗せている。
「フロリーナ! 使者だ! シャルロワ王国の!」
期待と焦りの混じった口調に、フロリーナは戸惑った。
ーーシャルロワ王国の使者?一体何の用だ?
連れて来た白い服を着た使者は馬から降りるやフロリーナの目の前で恭しく礼をとった。
「シャルロワ王国の使者が、何を伝えに?」
「我がシャルロワ王国はズウォレス軍にお味方します。おそらく既にベルトムント南部より侵攻が始まっているはず」
「なんと……」
フロリーナにとっては予想外の言葉だった。
一度は突っぱねられた話であったからだ。
「差し支えなければ理由をお聞きしても?」
「ズウォレス軍の故国を取り戻そうと奮戦する姿に心打たれたと」
ーー腹の内は見せてくれないか。
「現在わが軍は戦力の殆どをベルトムントの南に展開しております。なので直接ご助力できることといえば食料、武器の援助になります」
「それで問題はありません。慈悲深いシャルロワ王に深く感謝を」
「ご了承いただけたようで。では早速物資の援助を手配いたします。それではこれで失礼、大勝利を願っております」
「感謝します」
ブラームは馬を使者に渡すと、また来た道を戻っていった。
「フロリーナ、中部の戦力を戻して北部は突破できそうか?」
「……できなくはないだろう。だが……」
同等程度の戦力で勝てなかったのに数が増えたとはいえ真正面から戦って勝てるものなのだろうか?
「『人狩り隊』が相手じゃ被害はデカいだろうな。……そうだこんな時の『ズウォレスの黒狐』ことシセル坊ちゃんは? 犬みたいについて回ってただろ狐のくせに。あいつはどうした?」
「それは……」
「フロリーナ様! シセルさんが!!」
考え込んでいると一人のズウォレス兵が飛び込んできた。




