第8話
「なるほど考えたな。たしかにここなら見つからずに進める」
真っ暗闇の洞窟にも似た場所で松明を掲げながらシセルは思わずフロリーナの作戦に唸った。
現在シセル達がいる場所、それは……
遠く昔に使われなくなった手掘りの地下水道だった。
「ここは使われなくなって古い、現在の地図に記載されていないし、おまけに今追って来てるのは敵国の人間。ここを把握しているわけがない」
「けど現地人……ズウォレス人なら知ってる」
そういうことだ、松明に照らされたフロリーナの顔は笑っていた。
「子供のころからここを遊び場にしてるんだ。まあ危ないって自分の子供たちに言ってあるけど誰も聞きゃしない」
「そりゃそうだ! 俺達だってここで遊んでたんだからな! はっはっは!」
背中に弓を、腰には長剣を帯びたズウォレス人の兵士が陽気にそう言った。
そしてこの言葉はシセルにも当てはまる。
──確かにここで色々やったな……秘密基地にしたりもしたっけな
昔の事を思い浮かべながらシセルは周りを見た。
真っ暗闇の地下水道を進む彼等は元々兵士だった人間もいるが……大半は一般人だ。
本来なら武器を持つ必要のなかった人々のはずだった……
「……その顔を見るに、覚悟は決まったかな?シセル」
「……いや」
「煮え切らん男だな」
その青い瞳を細めやれやれといった風に肩をすくませるフロリーナ。
「もう少し歩いたら休息所だ。食料も武器もいくらか備蓄がある。最悪追手が居ればそれを使うことになるが、来なかった場合は担いで港へ向かうぞ」
「こりゃ凄いな。いつの間にこれほどの空間を作ったんだ?」
「死んでいった同胞たちの力だ。他にも色々準備を整えたお陰で5年もかかったがね。それよりほら、これでも食べるといい」
そう言ってフロリーナは樽から魚の切り身を取り出して手渡した。
シセル達が現在いる休息所と呼ばれるその場所は大人二人が肩車できるほどの高さと大きなクジラが余裕をもって置いておけるほどの広さがあった。
そしてそこには所狭しとオークの樽と弓と矢が置かれている。
樽の中身は塩漬けのニシンが入っているようだった。
シセルが受け取ったのもニシンだ、ただまあ味は……
「不味いな」
貰ったニシンはかなりの塩分を含んでいておまけにこれでもかというほど乾燥している。
「本来なら大鍋で煮込むためのものだからな……こればかりは仕方ない。まあお陰で少量で十分なんだがな」
「ひとまずは食っておくか」
「そうしてくれ」
気が進まないがこれも貴重な食料、シセルは我慢して食べることにした。