表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
元弓兵は帰れない。  作者: 田上 祐司
第一章 炎と灰の戦い
79/201

第79話

「居たぞ! あそこだ!」


 遮二無二突撃するベルトムント兵達、ようやく敵を見つけたのは計13名が射殺された後だった。


 ーー王の指示で借り受けた50名の兵士、それをここまで削るとは。


 額に付いた汗はそのままに、目の前を走る敵とおぼしき人間に弓を引く。


 黒い長髪に革鎧を着込んだ男……シセルだ。


 手にしている長弓から彼がズウォレス兵であるということは間違いないだろう、そう決定したベルトムント兵達は一斉にシセルめがけて殺到する。


「ええい、遠いな」


「他に敵は居ないのか? あいつは陽動だろ?」


「他に敵は見えないぞ!」


 徐々に距離を詰めていくベルトムント兵達、シセルはトウヒの枝が作りだした茂みに飛び込んでいった。


「よし、そろそろ弓の射程範囲だ!」


 遅れてベルトムント兵も茂みに突っ込む。


 だが……


「は?」


 先頭をきって茂みを抜けたベルトムント兵が間抜けな声を上げた。


 追いかけていたはずのシセルの姿がどこにもないのだ。


「ど、どこに?」


「また消えたのか!」


「よく探せ! 木の影に居るんじゃないのか?」


 辺りを見渡して見るも何処にも誰も居ない。


 あるのはトウヒの木のみ……


「うん?」


 皆が敵はどこだと探している中、一人のベルトムント兵があることに気が付いた。


 ーーなんだこれ?熊の爪か?


 茂みのすぐそばにあるトウヒの木、その太い幹に真新しい傷があるのだ。


 4本筋の爪で引っ掻いたような後が上へ上へと伸びている。


 それにつられてその兵士が視線を上に向けていくと……


「お前グァッ!?」


 居た。


 長い黒髪と生気の無い青い瞳をした男、シセルが。


 視認するや否や発見したベルトムント兵の肩に矢を贈ってきたが。


「上だ! 上に居るぞ!」


 痛みで肩を押さえながら仲間に大声でそう叫んだ。


 声を聞いたベルトムント兵達は一斉に木の上に視線と矢をつがえた弓を向ける。


「くそ! すばしっこい野郎だ!」


「他の木に移るぞ! 逃がすな!」


 シセルはブーツの先に着けた鉤爪を利用して隣の木に飛び移るのを繰り返し、ベルトムント兵の矢を躱していく。


 そしてシセルは枝で身を隠しながら上から反撃をしてくる。


「降りてきやがれ! 首を落としてやる!」


 木の上を飛び回り、逃げ続けるシセル。


 しびれをきらしたベルトムント兵達は無茶苦茶に矢を放ち続け……


「……チッ」


 飛び回るシセルの背中に矢を突き立てることに成功した。


 そして立て続けに左足、肩、掠めただけだが首に次々と命中させていく。


「あの状態で逃げるのか」


「すごいな……」


 かなりの量の血を流しながら、それでも木から木へ移り続けるシセル。

 

 地上を走り続けるベルトムント兵達。


 流れる血を目印に追いかけるものの木や岩、足場の悪い道のせいでついにシセルに逃げられてしまった。


「くそが……見失った」


「損害は?」


「22人、半分近くあいつに殺られた」


「なんてこった……」


 シセルが森の中で叩き出した損害、死亡者22名、負傷者4名。


 一人で敵に与えた損害としてはこの戦争が始まって以来最高の記録となった。

 

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ