第75話
夜の闇に紛れて、シセルは弓を背中に背負いベルトムント軍の近くへと向かっていた。
ーーあと少しでフェーンに着く。
木々の生い茂った林や森を抜け、徐々に徐々に近づいていく。
フロリーナから受けた命令を遂行するために。
『シセル、敵の巣まで近づいて指揮官を狩ってきてほしい。隊長格の人間もありったけ頼む』
シセル1人になんとも無茶な要求だが、遂行できれば敵はズウォレス軍どころではなくなる。
ーーやってやるさ。
矢筒に入った矢は12本、これで敵の指揮官を仕留めてやる。
そう思いながら、シセルは足を動かした。
一方ベルトムント軍では……
「ズウォレス軍はルメール村を拠点にしているようです。周囲は柵と堀に囲まれ馬での攻略は難しいかと……」
「そうか」
ーーたかだか1日2日でもうそこまでやれたか。
焚き火にあたるベルトムント王は深くため息を吐いた。
ベルトムント軍は斥候を放ち、逃げたズウォレス軍の動きを観察していたのだが……どうにも面倒なことになりそうだ。
「民間人はどのくらいまで逃げた?」
「まだ半数以上が旧ズウォレス領にいると思われます」
「そうか……」
300人の歩兵戦力で民間人が逃げるまでの時間を稼ぎつつ、敵の食糧がなくなるのを待つ。
現在のベルトムント王の狙いはそれだ。
「……最悪この旧ズウォレス領は捨てることになるな」
「え?」
南にシャルロワ王国の軍が集まっていて、それほどズウォレス軍には構ってはいられない状況だ。
「なんでもない。だがまずは時間稼ぎだ。民間人が逃げ切るまでふんばれ」
「勿論です」
うむ、と頷きベルトムント王は焚き火に薪を加えた。




