第74話
南部のズウォレス軍……
「既に逃げた後か……」
空になった村の建物を足で蹴り苛立ちを発散させるラルス。
やっとのおもいで辿り着いた村には粗末な煉瓦造りの家こそ沢山あるものの、住んでいたであろう人間はどこにも居ないし、食糧等も殆ど無いに等しい。
「略奪は出来ない上に、まともに補給が出来ないときたもんだ。辛いもんだよ本当。ジリ貧だ」
あと少し侵攻すればベルトムントの国境というところまで来た彼らだったのだが問題が3つ程ある。
1つは食糧の不足、2つ目は疲労、最後は病気だ。
南部のズウォレス軍は食糧不足が特に顕著で、戦地で十分な休息がとれないこともあわさり体調を崩す者が続出していた。
「北部も食糧の補給がないらしい。どこもかしこもはらぺこだ」
そうボヤくのはブラーム。
弓を背中に背負い、槍を杖がわりにして歩いてきたブラームだったが……数日前から熱がでている。
恐らくは夜の寒さと疲労が原因なのだろう。
「ラルス、斥候が戻ってきたら起こしてくれ。少し……休む」
そうして目を閉じたブラーム。
だが彼が眠りに落ちるその前に、彼は飛び起きることになった。
「貴様何者だッ!?」
後方で見張りをしていた兵士が吠えた。
そしてその瞬間、その場にいたズウォレス兵が全員声のする方向へと視線を向ける。
ーーいつの間にか後ろをとられていたのか!?
跳ね起きたブラームが槍を、ラルスが弓に矢をつがえる。
「お、お待ち下さい!! 我々は敵ではありません!」
全員が攻撃体制に移行していく中、矢を向けられた人物は半ば腰を抜かしながらそう言ってきた。
我々と言っているがどうやら一人のようだ。
「何者だ?」
兵士達をかき分け前に出るブラームとラルス、声の正体は髭を生やした男、白い服を纏ったその人物は特に武器という武器を持ってはいなかった。
だが腕の腕章が無いのを見るにズウォレス兵でもなさそうだ。
「わ、私はシャルロワ王国の使者です! ここにフロリーナ殿はおられませんか!?」
彼の放った言葉に、その場の全員がざわついた。
シャルロワ王国、ベルトムントの南に位置する国で以前フロリーナが使者を送っている。
ーー協力要請は突っぱねられた筈だ。今更なんの話だ?
とりあえず武器をおさめるように命令するラシドとブラーム。
警戒しつつブラームとラシドはとりあえず歩み寄った。
「本物なのか? 本当にシャルロワ王国の?」
「フロリーナの名前を知ってるやつは少ないからな、可能性は高い」
「アンタが使者だとして、何しにここに来たんだ?」
「協力です! 以前フロリーナ殿の申し出のお返事に使わされたのです!!」
「なんだって?」
半ば脅されながら使者が口にした言葉は、ブラームとラルスの興味を存分に引くものだった。




