第73話
シセルがフロリーナ達と合流できたのは、夜になってからだった。
フロリーナはトルデリーゼを連れてきたシセルに小躍りしながら握手をしてきた。
「よくやってくれたなシセル! これで敵と交渉ができる!」
兵士に脇腹の傷を縫ってもらいながら、フロリーナの相手をする。
だが正直今のシセルにはこんな事ですら堪える。
「それはなによりだが……ちょっと休ませてもらうぞ。限界なんだ」
「あ、ああ。しっかり休んでくれ」
らしくない弱々しいシセルの声に、フロリーナは頷いた。
脇腹と足の怪我を見せると、兵士達から離れた場所にある木の下、地面にそのまま寝っ転がり寝息をたて始めた。
「シセルさんにあれだけの手傷を負わせるなんて……」
「それだけ激しい戦いだったってことだ。今は休ませてやろう」
「はい……」
同時刻、フェーンに駐屯するベルトムント軍……
シセルとの対決を終えた老人はベルトムント軍に合流、焚き火に当たりながら手当てと食事を始めていた。
「おお痛ぇ……」
右腕を射ぬかれた老人だったが、矢は貫通していて対したことはなかった。
だが弓を引くことができるようになるのはまだ先の話になるだろう。
革袋に入った酒精の強い酒を腕にかけながら、自分も一口飲む。
ーー強いだけで、不味い酒だな。
心の中でそう苦情を言っていると、焚き火の近くに誰かが座った。
黒い鎧を着込んだ男……ベルトムント王だ。
恭しく礼をとるが、ベルトムント王はどうでもいいとばかりに老人の酒を取った。
「……不味いな。もう少し良い酒を飲んでも罰は当たらんぞ『ズウォレスの黒狐』よ」
「配給されたものなのです。良い物がお望みならば、配給係にお声を……」
「流石にそれはできんな。だがまあ検討はしよう」
まずいと言いながら革袋の中身を飲み干すベルトムント王。
「それにしても見事な戦いぶり。流石は『人狩り隊』、異名は伊達ではありませんな」
「ああ、だが我々はこれ以上進軍することは出来ん。補給も兵士も足りん」
「と、言いますと?」
「奴らが組んでいるとは考えにくいが……シャルロワ王国が我がベルトムントの南部に兵士を集結させている」
ベルトムント王の言葉に、老人は眉をひそめた。
「となると……シャルロワ王国との戦争に?」
「なるかもしれん、どのみちズウォレスごときに大量の兵士は割けない。我々はこれだけの兵士で戦わざるをえない」
それにしても少なすぎると思うのだが……




