第72話
「負傷者の手当を急げ、それと物資はどうだ?」
ルメール村にたどり着いたフロリーナ率いるズウォレス軍、他の兵士に肩の傷を縫ってもらいながら、フロリーナは指示を出す。
捕虜に持たせていた物資は殆どが消えてしまったとみて間違いないだろう。
となれば残った物資でやりくりするしかないのだが……
「食料は少量……薪は他からかき集めればどうにかなるでしょう」
「そうか……」
撤退して取り切れていない食料を各都市から略奪する、それも考えたが時間がかかればかかるほど敵に選択肢を与えるだけだ。
となれば進むしかないが兵士の数も物資も足りない……
矢もタダではないし、作れる量に限りもある。
「負傷者の手当が終わったら仕事を始めるぞ。この村を要塞化する」
「承知しました」
仲間が来るまでの時間を稼ごう、中部の部隊が到着すれば多少は戦争になる。
フロリーナはそう考えながら兵士に指示を送った。
その頃のシセルとトルデリーゼ……
「この分だとルメール村まで後退したな……おいさっさと歩け」
ズウォレス兵の物と思われる道に出来た真新しい足跡を追跡しながら、シセルはトルデリーゼの手から出ている縄を引っ張る。
「腕を縛られて歩きにくくてな」
「我慢しろ、兵士だろ?」
皮肉を言うトルデリーゼに冷たく返し、歩き始めるシセル。
「そういやお前、貴族なんだってな? なんで貴族の娘が兵士になんてなろうと思ったんだ?」
「さあな」
「……フロリーナの娘とはどんな関係だ?」
「さあな」
「…………お前を裏切った仲間はどんなだった?」
「さあな」
舐めている、シセルはそう確信した。
シセルに向けてくるトルデリーゼの視線は侮蔑を多分に含んだものだ、本来整った顔立ちをしている彼女だが今はあざだらけの汚い顔、見ていてとても気分が悪い。
「質問を拷問に変えてやろうか? フロリーナも生きてさえいれば文句は言わないだろうしな」
「やめておいた方がいいぞ、荷物を増やすことになるからな。それともそれを考えるだけの頭も無いのか?」
「可愛げのない女だな全く」
「お前達ズウォレス人に向ける愛嬌などありはしない」
ズウォレス人への蔑視もここまで来ると清々しいものだ。
だがよくよく考えてみればシセルの周りに可愛げのある女性はほぼいない。
愛嬌があるのはメラント島でシセルの介抱をしてくれた女性ぐらいだろうか?
「……さっさと歩くぞ。早くしろ」
「引っ張るな、ズウォレス人」
「黙れベルトムント人」




