第68話
やや雨雲が見え始めた正午。
フロリーナ率いるズウォレス軍は大量の物資があると思われる車列へと突撃を開始した。
ズウォレス軍500名の一斉突撃、揃えた槍の穂先は必ずやベルトムント人の腹に穴を開けることになるだろう。
その場にいる誰もがそう考えていた。
「ん?」
先頭で指揮をしていたフロリーナがあることに気が付く。
難民たちが逃げようとしないのだ。
ーーなんだ?嫌な予感がする。
もう接触まで間近というところで難民たちに動きがあった。
「抜剣!! かかれッ!!」
彼らはそれまで被っていた麻布をひっぺがし、隠されていた長剣を抜き放つ。
ーーこいつらベルトムント軍の正規兵か!?
そう気が付いた時には、もう遅かった。
ついに接触する両軍、最初に血を流したのは……ズウォレス兵のほうだった。
「恨みを晴らせ!」
「ベルトムント王に栄光あれ!!」
下からズウォレス兵の槍を跳ね上げ、がら空きの胴に長剣を叩き込む。
槍で武装したズウォレス兵が既に押され始めていた。
「なんだこいつら!? 強いぞ!?」
「ただの兵士じゃねぇ!」
1人、また1人とベルトムント兵の凶刃に力なく倒れるズウォレス兵。
ーー弓で最初に攻撃しておくべきだったな。
心の中で毒づきながらも、フロリーナは目の前の敵に集中する。
だが彼女自身はそれほど強いわけではない。
力、速度、戦闘経験……
それらすべて敵の方が勝っている。
「ぐっ……くそッ……撤退しろ!! 撤退!!」
フロリーナはついに肩を切り裂かれた。
撤退命令を出すが、もうフロリーナ含む先頭の部隊はほぼ負傷あるいは死亡している。
そして後方のズウォレス兵はというと……
「聞いてねぇぞこんなの!」
「ベルトムント人めが!!」
我先にと逃げ出すズウォレス兵達……
いままでズウォレス軍がやっていたことをそのまま返されているような、そんな感覚だった。
フロリーナが撤退を始めた時、北部の森では……
ーー一体どうしたんだ?
大した損害も与えられず敗走するズウォレス軍を見て、木の上に登って暫く観察していたシセルは唖然としていた。
ーー難民じゃないのは分かったがああも簡単に敗走するものなのか?
頭に疑問符を浮べながら、どうにか思考を巡らせる。
「ええい、何が何だかわからんがともかく攻撃しよう」
少なくともシセルは攻撃できる程度の距離にはいる。
シセルは黙って弓を引くことに決めた。




