第66話
3日後、ホルウェ港付近……
「ではなディートリンデ、イグナーツ」
数名の兵士と共にメラント島へと移送するフロリーナの子供2人、ディートリンデはイグナーツを抱き抱えたままフロリーナに一礼を返すと兵士に連れられ去っていった。
寂しそうな視線を子供に送るフロリーナを見て、シセルはなんともやるせない気分になった。
「…………」
「フロリーナ、行こう。とっととこの戦争を終わらせるんだ」
「ああ……」
子供をメラント島へと逃がし、侵攻すること1週間後……
シセル達……いやズウォレス軍全体がとある問題に直面した。
略奪が出来ないのだ。
「駄目だ、ここもない」
適当に入った汚い木造の建物の中、椅子に浅く腰かけたシセルがぼやく。
ホルウェ港からある程度進んだ先にある村や都市のほとんどはもぬけの殻になっているのだ。
現在シセル達がいる村も同じくで、現地での食糧の補給が出来ていない。
「南もどうやら同じようだ。報告がきた」
フロリーナはシセルのいる場所まで来ると、シセルと同じように椅子に腰かけた。
「なんだと?」
報告してきた兵士によると、南の部隊も同じように略奪が出来ておらず補給に四苦八苦しているようだった。
食料をめぐって喧嘩も起きていると聞いている。
「……どうする? このまま進めばじり貧だぞ」
「だが進むしかない。せめてベルトムント領とズウォレス領の国境まで行かないと。ズウォレス領からベルトムント兵を追い出さねば我々はどのみち終わりだ」
そうして話していると、シセルはあることを思い出した。
「フロリーナ、あの話しはどうした? シャルロワ王国との取り引きの話は」
ベルトムント王国の隣国であるシャルロワ王国、彼等をベルトムントにけしかける為にフロリーナは使者を送ったはずなのだが……
「断られたよ。賭けに負けた」
「そうか……」
予想はついていた、フロリーナがその事についてしゃべらなかったのだからつまりはそういうことなのだろうと。
「だからもう一つ手を打っておいた。こっちはどうにかなるかもしれん」
「もう一つ?」
「シェフィール公国に使者を送った」
「あの腰抜けのどうしようもないクソ野郎共にか!?」
シセルは目の前にあった木の机を蹴り飛ばし、烈火の如く怒りながらフロリーナに詰めよった。
「気持ちは分かるとも。私も同じ考えだからな」
「最悪だクソが!!」
シェフィール公国、かつてズウォレス王国と同盟を結びシェフィール公国が戦争した時にはズウォレス軍も協力して戦った国……
なのだが、ズウォレスがベルトムントとの戦争になった途端一切の支援をすることなく無視を決めた国なのだ。
「あの恩知らずのクソ野郎共が助けてくれるわけないだろうが!! 一体何を考えてるんだ!?」
「だから半ば脅しておいた。『我々が負ければ次は貴方の国だぞ』とな。まぁ他にも色々脅したが」
納得できないとばかりに歯噛みするシセルの肩に、フロリーナは手をおいた。
「まぁ、とりあえず目の前のことに注力しよう」
「ああ……」
「では命じよう。焼け」
鬱憤を晴らすように、シセルは建物に火をつけて回った。




