第65話
「おい勝手な真似はするな! やめろ!」
「いくらフロリーナ様の子といっても見過ごせんぞ!」
シセル達が戻ってくると、ズウォレス兵がディートリンデと捕虜の1人を取り囲んで言い争いをしていた。
兵士達の輪の外には泣き出しそうなイグナーツもいる。
「一体なんの騒ぎだ?」
フロリーナは囲んでいるズウォレス兵に話を聞いてみた。
「この子が勝手に捕虜を解放しようとしたんです!」
「なに?」
そう言われフロリーナがディートリンデに目を向けると捕虜を庇うように両手を広げているではないか。
そして庇われているのは指が欠損している女……
メラント島でフロリーナを暗殺しようとしたベルトムント兵の一人。
顔面に痛々しいアザの残るトルデリーゼだ。
「……ディートリンデ、なぜその女を庇う?」
取り囲む兵士を涙目で睨むディートリンデに、フロリーナは聞いてみた。
「ひどい扱いをされているのを見れば、誰だって。それにひどい熱です! 休ませないと」
そう答えるディートリンデだが……なにか引っ掛かるものがある。
「それだけか? だとしたら私はその者の扱いを変えるつもりはないぞ」
わざわざ船に積んで、メラント島から連れてきたトルデリーゼ。
フロリーナはできる限りの苦しみを与えたいが為にわざわざ手間をかけているのだ。
それを親族の一言で解放する気にはなれなかった。
「…………」
「言ってみろ、ディートリンデ」
「この方は、私の友達です」
ディートリンデの放ったその一言に、眉根を寄せるフロリーナ。
「クラウゼ家のご令嬢で、私と何度か面識もあります。お会いする度、気さくに声をかけて下さって……それからーー」
長々と話を続けるディートリンデだがフロリーナは最初の一言を聞いて目の色を変えた。
クラウゼ家のご令嬢、その単語以外フロリーナは聞き流しているようだったが。
「クラウゼ家……確かベルトムントの伯爵家だったか。そうかそうか……」
口角を吊り上げ妖しく笑うフロリーナ。
「いいだろう、その女のみ待遇を変える。手の治療と休息を与えようじゃないか」
「お、お母さま?」
周囲の仲間に命じて手の手当をさせながらフロリーナはシセルに耳打ちしてきた。
「この女は使えるぞ」
シセルは機会があるならば後にこう語ることだろう。
『一番きれいな目をしていたのはあの時だ』
と。




