第63話
補給に向かったブラーム率いる部隊は旧ズウォレス領南部の部隊に補給を終え南部の攻略に協力していた。
よく晴れた午前の出来事である。
南部のズウォレス軍の勢いは凄まじいものではあったが、遅れを取り戻すためか指揮を執るラルスには焦りが見えていた。
「ラルス。中心部のアルンは越えた。少しぐらい兵士を休ませた方がいい」
「いやこのまま進軍しよう。ブラーム、お前は慎重すぎるんだよ」
現在ブラームとラルスは旧ズウォレス領の中心にある都市、アルンの攻略を終えた後。
燃え盛る建物には目もくれず落としたアルンで食料や武器を略奪していた。
だが南部の指揮を任されていたラルスの今の姿はというと……髭が伸びに伸び、瞬き一つしない瞳、それと彼の赤毛は赤黒い血で固まっているというもの。
ほぼ休息無しで進軍し続け住人を殺しに殺した結果がこの見た目、もはや悪魔のそれだ。
ーーまともな判断が出来てないな。無理にでも休ませないと。
彼も、彼の仲間も限界だ。
建物の壁に背中を預けて座ってそれっきり動かないズウォレス兵も少なくない。
南部のズウォレス兵はもはや気力で持っているだけと言っても差し支えない。
「いいから休め。仮に敵が来たらこれじゃあ戦えない。十分な食事と睡眠をとらせるんだ」
「……分ったよ」
無精無精ながらも、ラルスは了承した。
とはいえ……
ーーこのまま俺がどこかに行くと、確実にこいつは無理に突っ込む。暫くは付いていくか……
早くフロリーナと合流したい、ブラームはうっとおしいほど綺麗な青空を見てそう思った。
一方のシセル達北部のズウォレス軍、彼らはご丁寧に整備された石畳の道を歩いていた。
部隊を半分に分け北部をフロリーナ達が、中部をもう半分の部隊が攻略するようになった。
「休息をとろう。略奪品に確か葡萄酒があったな? 樽で一つふるまってやってくれ」
フロリーナがそう指示をすると、兵士たちは喜んだ。
久しぶりの酒だと。
「よっし酒だ! 開けろ開けろ!」
嬉々として樽を開ける兵士を尻目にシセルは火の準備をしていた。
二つに割った薪の片方に小さく切れ込みを入れ適当な埃などを置く。
あとは切れ込みに薪をこすり合わせれば火種が出来る。
「おいシセル、まさかまた吸う気か? 戦闘中じゃないんだぞ」
「黙っててくれ」
フロリーナの言葉にシセルは素っ気なく答える。
ーーこいつ……
フロリーナはシセルを見て気が付いた。
シセルは誰も居ない、何もない虚空を見ているのだ。
「シセル……」
「近寄らないでくれ、分かってる、分かってるんだ……」




