表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
元弓兵は帰れない。  作者: 田上 祐司
第一章 炎と灰の戦い
62/201

第62話

 ベルトムント王国、王城にて……


 精緻な装飾が施された黒い鎧。


 まずあり得ないがどこかに売ろうものなら凄まじい値がつきそうなその鎧をつけながら、ベルトムント王は報告を待っていた。


 なんの報告か?


 それは……


「……来たか。どうだ?」


 執務室に入ってきたのは鎖帷子を身に着けた兵士、頭を垂れながら彼は口を開く。


「すぐに集められたのは300です」


「まあ、致し方あるまいな」


 ベルトムント王が出陣するにあたって、すぐに集められるだけの兵士を集めさせるように指示を出した。


 そうして集まった戦力は300、この時点でズウォレス軍の正確な兵力は分かってはいないが……まあ不足であろう。


「兵種は?」


「騎兵です」


「よし、私の馬は用意してあるか?」


「はい」


 上々だ、そう言ってベルトムント王が部屋を後にしようとした時だった。


 慌てた兵士が執務室に入ってきた。


「一体どうした?」


「申し上げます! 旧ズウォレス領から大量の難民が!」


「ほう……」






 旧ズウォレス領とベルトムント王国の間には長大な河が存在する。


 エムレ河と呼ばれるその河は三つの石橋が架かっているのだが、中央の橋であるエムレ橋の前は大量の難民で埋め尽くされ商人や兵士達の往来を阻んでいた。


「農民共! 邪魔だ!」


 盾を装備した兵士達が叫び、なんとか難民達を制しようとしているが、うまくはいかなかった。


 着の身着のまま自分たちが住んでいた場所から逃げて来た彼らは既に限界。


 既に食料が尽きている者も多く、ズウォレス軍に追いかけられ続けたことも相まって皆ベルトムントに戻ろうと必死であり一部は既に暴徒と化していた。


「退きやがれ!! 俺達を置いてさっさと失せたごくつぶしの糞野郎共が!」


「構わねぇ! ぶち殺しちまえ!!」


 薪や農業用の鎌を持った彼らは兵士へと殺到、先を進もうとする。


 そんな彼等の前に、ベルトムント側から多くの騎兵を引き連れた人物が現れた。


「静まれえええええええええええええええええええええええええええええええッ!!!!」


 天まで届けと言わんばかりの凄まじい声量。


 それを発したのは、鎧姿のベルトムント王だった。


「諸君、どうか私の話を聞いてほしい」


 静まり返ったエムレ橋、難民達を真っ直ぐに見据えてベルトムント王は口を開く。


 「我々は今日この時より敵地へ向かう。我々は気力を失うことも仕損じることもない。我々は最後の一兵に至るまで戦い抜く。我々はいかなる犠牲を払おうとも、自らの領土を守る! 我々は海岸で戦う! 我々は水際で戦う! 我々は野原と街頭で戦う! 我々は丘で戦う! 我々は決して降伏しない!! 降伏することはない!!」


 熱のこもったベルトムント王の声。


 「すべてのベルトムント人は我が子も同じ! 見捨てることなどありはしない。さぁ兵士達よ! 我が背に続け!!」


 そう告げたベルトムント王に難民達は道を開けた。


 馬蹄の音を響かせ王と騎兵が駆け抜ける。


 難民たちは王のその背に羨望と畏敬の念を送った。

 


 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ