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元弓兵は帰れない。  作者: 田上 祐司
第一章 炎と灰の戦い
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第57話

「今だ突っ込め!! 急げ!!」


 フロリーナが城壁の上からそう叫ぶと、完全に降りきってしまった橋に向かってズウォレス兵が殺到した。


 そしてフロリーナ達は橋の昇降を管理する装置の取っ手を破壊する。


「この糞野郎どもが!! よくもやってくれたな!!」


「殺せ! ズウォレスの豚どもを殺せ!!」


 場内に殺到するズウォレス兵を見て怒り狂ったベルトムント兵がせめて道連れにしようと向かってきた。


 シセルは短弓で、他の兵士は長剣で対抗しようとしたが……


「飛び込め!!」


「んなっ!?」


 戦おうとしたシセルを差し置いて、フロリーナは綺麗な体制で堀へと飛び込んだ。


「冗談じゃねぇ!! こんなところから飛べってのか!?」


 だが実際今の負傷兵が大量にいるこの状況下ではまともには戦えない。


 だから……


「くそったれ!! お前といるといつもこれだ!」


 思い切って他の仲間と一緒に城壁の上から堀に飛び込む。


 足を伸ばし、短弓を手にしたまま腕を組む。


 そうして水面に着水、濁りに濁った水が口に入ってきた。


「なかなか楽しい遊びじゃないか?」


 先に飛び込んでいたフロリーナが軽口をたたく。


「ああ、命のやり取りがなければ……やって、おえっ」


「やめてくれ、せめて私が出るまでは水をゲロまみれにしないでくれ」


 吐きそうになるのを抑え、堀から上がろうと泳ぐ。


 ふと上を見ると侵入してきたズウォレス兵と先ほど襲ってきたベルトムント兵が戦っている。


 追ってくることはなさそうだ。






「兵士の捕虜は要らん、殺せ。食料、資材は捕虜に持たせて歩かせろ」


 完全制圧した後の城を歩くフロリーナ、そこかしこに死体がありそこから鎧をはがしたりしている味方がいるがフロリーナはそれを気にとめることは無い。


 どこか一点を目指して歩いている。


「フロリーナ、一体どこに行くつもりだ?」


「残党狩りさ、まだ隠れていられる場所があるからな」


 そう言ったフロリーナはある部屋に入った。


 豪華な調度品が並んでいた外とは違う、積み木や木で出来た馬などが置いてある部屋……


 ーー子供の部屋……か?


 隠れているのが子供でなければいいな……シセルは心の中でそう願った。


 そうしてフロリーナが部屋の中を暫く歩き回ると……突如音も無く剣を抜いた。


『下だ』


 床に敷かれた小さめの絨毯を指さし、合図をシセルに送るフロリーナ。


 息を合わせながらシセルは絨毯をめくる。


 すると……


「くたばれ豚共!!」


 床板が突然跳ね上がり、中から屈強な兵士が長剣片手に飛び出してきた。


「危ないな」


「ああ全くだ」


 だがこうなると予想はしていた。


 さして焦りもせずシセルは矢を放ち、フロリーナが止めとばかりに剣を振るった。


「おのれ……」


「こいつが最後の一人か。あっけないもんだな」


「ああそうだな。引き上げよう」


 踵をかえして立ち去ろうとした、その瞬間だった。


「お母さん? お母さん!!」


 小さな男の子の声がして、思わず長剣に手をかけるシセル。


 ーーまだ生き残りがいたのか!?


 警戒心を強めたシセルだったが、フロリーナは全く違う反応を見せた。


「まてシセルッ!!」


「何?」


 床下から子供の頭が見えたかと思うとなんとフロリーナはその子供を庇うようにシセルとの間に割って入ったのだ。


「待ってくれシセル! 頼む!!」


「お前……一体……」


「お母さん」


「イグ……ナーツ?」


 シセルが唖然としている中、フロリーナは子供を抱きかかえた。


 よく見ればその後ろで怯えている女の子がもう一人見える……


 もう何が何だかシセルには分からなかった。


「おいフロリーナ、どういう……」


「この子はイグナーツ、奥に居るのはディートリンデ……私の……子供だ……」


 涙を流しながら自分の子とする子供を抱きしめるフロリーナは、もはや悪魔というにはふさわしくなかった。

 

 

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