第51話
「フロリーナ達が来る前にある程度露払いをしておくぞ! 向かってくる奴だけ殺せ! 逃げる奴らは捨て置いて補給部隊を行かせろ!」
先にハルリン港へと到着したブラーム率いる補給部隊は港にいる民間人となけなしの自警団を相手取り戦闘をはじめていた。
といっても向かってくるものはかなり少ない。
正義感に満ち溢れた青年が、老いた親を殺された家族が、棒切れや銛を片手にかかって来る程度。
だが彼らの怒りがズウォレス兵を傷つけることは叶わない、1人に対して2人3人と群がって確実に潰される。
向かってきたベルトムント人はただ血を流して無駄に死ぬのみ。
ズウォレス人は女子供でも容赦なく殺す、そういう噂はもうすでに旧ズウォレス領には広まっているのだろう。
ほとんどのベルトムント人は着の身着のまま逃げるだけだ。
ブラーム達ズウォレス人からしてみればやりやすくていい。
「進め進め! 一刻も早く補給を届けて俺達も侵攻に手を貸すぞ! 俺たちの悪魔がどれだけ恐ろしいかベルトムントの豚共に教えてやれ!」
木造の建物に火を放つだけにとどめ、本格的な略奪や破壊は後続のフロリーナの部隊に任せブラーム達は進軍する。
向かうはウェルへ村、途中休憩を挟みつつ歩き詰めで3日かかる。
それまでベルトムント軍の妨害が無いことをブラームは祈った。
ブラーム達がハルリン港へとたどり着いた時、シセル達はまだ海の上だった。
「……微妙な味だな」
「いやそんなことは無い。うまいぞこれは」
「シセルさん、その意見には無茶がある」
シセルの必死の抗弁も虚しく仲間の兵士は否定した。
船の上では丁度食事の時間、シセルがいつぞや考案した新型の食料を食べているのだが……やっぱり微妙で兵士の評価も酷いものだ。
『油がくどすぎる』『食感がただただ不快』『肉なのに肉じゃない』など、食べた兵士からの評価はほとんど不満しかない。
「まあ……塩漬けの魚をそのまま食うよりはマシなのかな……」
「食事としてみたらゴミだけど保存が効いて戦場でそのまま食う飯としては……まあいいの……かなぁ?」
一部の兵士にちょっとだけマシな評価をされシセルの心が少しだけ救われた。
「ああ、肉の生産量が少ないから今後は魚で代用できないか試すぞ、まあ多分味は更に落ちるだろうが幸いタラやニシンは沢山取れるから試さない手はない」
『味は更に落ちる』フロリーナのその言葉に他の兵士たちは肩を落とした。
そしてシセルは……
ーーこんなもの作るんじゃなかったな。
手に持った食べかけのそれを見て、シセルは心の底から後悔した。




