第47話
一時的に呆気にとられたフロリーナだったが、その後は早かった。
「森の中だ!」
叫びながら飛来してきた矢の射線を遮るため船の後ろに身をひそめるフロリーナ。
ーー森の中か、見張りを潜り抜けてよくもまあこんなところまでくるものだ……
背中に走る焼けるような痛みを堪えながら弓をとり矢をつがえる。
正直シセルと比較すればお世辞にもフロリーナの腕は良いとは言えないがそれでも何もしないよりはましだ。
「何処だ!? どこに居る!?」
「森に走れ! 遮蔽物に隠れろ!」
狼狽える兵士達が目立つ。
どうにも攻められるのに慣れていなさすぎる。
「フロリーナ様! 大丈夫なのですか!?」
「すまないが矢を抜いてくれないか? 自分じゃできなくてな」
慌てて駆け寄ってきた兵士に背中の矢を任せ、彼女自身は森のどこかに居るであろう敵を探す。
ーー何処だ?
「おーおー。はーずしちゃったよー」
「そんなことを言っている場合ですか!? 逃げますよ! 敵が来ます」
船着き場の近くの森にはホルウェ港に居た二人組、トルデリーゼと白髪の老人が弓を構えていた。
飄々とした老人に対しトルデリーゼはかなり焦っている。
森の中に続々とズウォレス兵達が入ってくればそうもなるだろうが。
「逃げるか……まあ目標は仕留め損ねたし。仕方ないか。とはいえこれだけ敵に接近されたら厳しいな」
「なんです?」
戦闘中であるにも関わらず呑気にじっとトルデリーゼを見つめる老人。
穏やかな笑みを浮かべたまま、老人が取った行動は……
「何を!? やめーー」
彼女が制止するのも聞かず、老人は彼女の足に腰に差していた長剣を突き立てた。
「悪いが足止めを頼んだ! 儂は少し泳いでくる」
「おのれズウォレス人めが!!」
笑顔で手を振りながら老人はトルデリーゼを置いて一人で逃げ去った。
「居たぞ! あそこだ!」
「生け捕りにして情報を吐かせろ!」
森の中に入ってきたズウォレス兵がついに二人を発見、全速力で追いかけてきた。
「じゃあな、無事に逃げ切れることを祈ってるぞ」
「待て貴様ァッ!!」
トルデリーゼの叫びも虚しく、老人は全速力で去って行った。




