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元弓兵は帰れない。  作者: 田上 祐司
第一章 炎と灰の戦い
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第45話

「準備出来ました! いつでもいけます!」


「よし! 作戦開始だ!」


 シセル達がメラント島へと帰った4日後の正午、ラルスの指揮の下でついに『牧羊犬』作戦は実行された。


 目標は旧ズウォレス領の都市全て。


 血に飢えたズウォレス兵の剣と弓は、都市にすむベルトムント人に対して振るわれた。


 あちこちで猛烈な火の手があがり、家や穀倉地帯を焼き払いながら西から東へとベルトムント人を追い立てる。


 最初の動きは順調であった。






 翌日のメラント島。


「初動は問題なく進んでる。北はアムス、南はエインまで侵攻終了、すでに制圧済みだ。ベルトムント軍の動きもさして良くはない。逃げるのに手一杯なんだそうだ」


 ブラームがそうフロリーナに報告を入れると彼女は目を輝かせて満足そうな笑みを浮かべた。


「実に良い、ただ報告は逐一入れるように。良いことも悪いことも報告させろ。これは絶対だ」


 厳しい視線でそう言うフロリーナ、これには過去に苦い経験があっての事だった。


 過去にズウォレス軍は自身の軍に都合が悪い情報を殆ど報告しなかったということで対応が遅れ戦線が崩壊したのだ。


 こんなことになるのは是が非でも避けたい、だから常日頃からフロリーナは口酸っぱく言って聞かせている。


「ああ勿論。これからが悪い報告だ。南部の部隊が食糧なんかの物資がやっぱり足りていない。ウェルへ村辺りで尽きる」


 ーーああ良かった、しっかり報告している。


「略奪だけでは足りないか……仕方ないこちらから物資の運搬をしよう。食料と……武器に防具も要るな」


「大型の船を使ってもどうあがいても侵攻が遅れるぞ」


「こればっかりは仕方ない」


 補給なしで突撃するなど地獄でしかない。


「至急手配する。ブラーム、補給部隊の指揮を頼んだ。私は後続の部隊と共に渡る」


「了解だ。船乗りを集めてくる」


「ああ、頼む」






 同時刻メラント島北部。


「頭が痛ぇ……」


「大丈夫ですか? シセルさん」


 診療所のベッドの上で上で目を覚ましたシセルが、水をもらいながら頭を押さえる。


 ひどいものだ、今のシセルには目の前が歪んで見えている。


「……ずっと幻覚を見てて、どうしようかと思っちゃいました」


「ありがとう、見ていてくれて」


 お礼を言って立ち上がる。


 だがすぐにふらついてその場に膝をついてしまった。


「大丈夫ですか? もう少し休んだ方が……」


「これ以上休んだらそれこそ体がいかれる。だから行くよ」


「無茶はしないでくださいね。行ってらっしゃい。シセルさん」


 ふらつく体にむりやり喝を入れ、シセルは歩き出した。

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