第44話
「さて、シセルの様子はどうだった?」
ホルウェ港での小競り合いから2日後、メラント島にたどり着いたシセルとブラーム。
シセルは北部へ、ブラームは南部の森の中で穴掘りを進めるフロリーナに報告を入れていた。
「シセルは……今後は前線に出さないほうがいいと思うぞ。あいつがいると足並みが乱れそうだ」
「ほう?」
土まみれの顔を手で拭い、地面に腰掛ける2人。
フロリーナは興味深そうに、そしてブラームは深刻そうな顔をし始めている。
「あいつは技術だけならとんでもない実力を持ってる。だがあの甘ちゃんはいただけない」
「やっぱり躊躇したか『牧羊犬』は」
「ああ……」
ラルスたちの部隊と接触し話をした時、シセルは動揺していた。
顔見せと士気の高揚を狙ってフロリーナがブラームに付けさせたが、どうやら失敗した様子。
「それにあいつ、薬を使いすぎてる。このままじゃ廃人になるぞ」
「……仕方ないな。しばらくメラント島に居てもらう。向こうはラルスに任せてな」
そうしてくれ、ブラームはそう言うと腰を上げた。
「少し休むが、それでいいか?」
「ああ、しっかり休んでくれ」
じゃあな、そう手を振って去って行くブラームを見送りながらフロリーナはあることを考えていた。
同時刻、メラント島北部。
「大丈夫なの? シセルさん」
「え? ああ……」
診療所のベッドに医者の女性に世話されながら毛布を掛けられ横になるシセル。
素焼き煉瓦を積み立てて作った小さな診療所ではあるがないよりはましだ。
まあそんなことはどうでもいい。
問題はシセルの状態だ。
ーーああ、お前等か。
シセルは悪寒に震えながら何もないはずの虚空を見ていた。
「あの、シセルさん? 何を見てるんです?」
あまりに一点を見つめ続けるシセルを気味悪がりながらも女性は声をかけた。
「幻覚さ……俺が一番見たくない奴らが、今、そこにいる」
「え?」
シセルのその青い瞳には、悲し気な表情を浮べる子供の姿や死んでいった仲間が大勢映る。
困惑している女性を置いておいて、シセルは幻覚で生み出された人間に話しかけてみた。
「俺も多分、近いうちにそっちに行くだろう。だから……待っててくれ」
「シセルさん。お願いですから正気に戻ってください! そこには誰も居ません!」
ーーうるさい女だなあ。
ぼんやりそんなことを考えつつ、満足したシセルは自分に掛けられていた毛布を頭まで被った。




