第42話
「いたぞあそこだ!」
「追え!」
次々屋根に登りだしたベルトムント兵達。
そしてそこには鼻息荒く、目を見開いて悪魔のような怒りの表情を浮べる男が居た。
風に黒い長髪をなびかせながら夕陽の中でベルトムント兵を睨んでいるシセルの姿がそこにはあった。
「弓だけか! お前等突っ込むぞ! 的を絞らせるな!」
屋根の上に弓を持って佇むだけのシセルに、ベルトムント兵は盾を全面に構えたまま瓦を踏み散らし殺到し始めた。
人数の有利もあるうえにここは2階上の屋根、飛び降りることができても負傷するのは間違いないだろう。
だが……
「おっと?」
「ここから行くとは馬鹿だな」
シセルは躊躇なく地面目掛けて飛んだ。
そのまま地面に叩きつけられて死んでくれ、その場に居たベルトムント兵全員がそう思ったのは間違いない。
「おいおい生きてるぞアイツ。尻尾まいて逃げてやがる」
「着地の技術だけは見事なもんだぜ」
口々にシセルの姿を笑うが、そこで彼等は仲間を殺されているのを思い出した。
ふつふつと怒りがわいてくる。
「……あんな臆病者に俺たちの仲間がやられたのか?」
「気持ちはわかるが押さえろ。俺たちの任務は現状視察と『例のアレ』だけなんだからな」
「糞が……」
「一旦集結地点まで撤退するぞ」
屋根の上で歯噛みしている彼等だったがそれも終わりだ。
「おいお前等! 撤退だ! 急げ!」
「退くぞ!」
「なんだあいつ等……」
次々退いていくベルトムント兵を見ながら、ブラームは眉根を寄せた。
「てきはひいてるみたいだぞ」
「うおっ!?」
後ろからいきなり声がしたかと思って振り向くと、目を見開いたままのシセルがそこには居た。
「いつの間にそこに居たんだ……いやそれ以前に」
ブラームはシセルの姿を見て絶句した。
瞳孔は開いたままで仮面のような無表情、恐らく意図していない体の震えに加えて口調はたどたどしい。
「お前阿片の使いすぎだ。減らせ」
「え?」
「あとこのまま待機するぞ。待機だ。いいな?」
「あ、ああ……」
ブラームが話しかけてみると、少し上の空になっているようだった。
ーーしばらく待ってから、薬抜かないとまともに使えなくなりそうだ。
一抹の不安を覚えながらも、ブラームはシセルと一緒にベルトムント兵の動向を見守った。




