第39話
背負った荷を土産代わりにいくつか仲間のズウォレス軍に渡した後、シセルとブラームはメラント島へと帰路についていた。
「さて俺たちはメラント島に戻ろう。俺たちはあくまで連絡係で攻撃はあいつらの役目だからな」
「ああ……」
晴れやかな顔でホルウェ港へと歩くブラームとは正反対に、シセルの表情は暗かった。
ーー民間人を難民にしてベルトムント側に送り込むか……敵の国の人間とはいえ武器も持たない市民なのに……
シセルの脳裏に浮かんでくるのはかつて世話していた捕虜の子供達のことだった。
全ての都市を攻撃するとあらば勿論死者も出るだろう。
罪もなく、戦う力もない子供が殺される光景をまた見なければならないのかとどうしても考えてしまう。
「どうしたシセル。暗い顔をして。安心しろこっからは帰るだけで戦闘はない。まあ欲しい物があるならホルウェ港で略奪でもすりゃあいい。食料もたんまりあるだろうからな」
「違う」
俯いて歩いているとブラームがシセルの顔を覗き込みながら話しかけてきた。
「じゃあなんだ? 観光でもしたいのか? やめとけよ今はどこも疑り深い人間が多いんだ。下手うったら攻撃されるんだからな」
「違う、そんな事じゃない」
「じゃあなんだ?」
シセルの態度に段々とイライラしてきたのだろう、ブラームの語気が強くなる。
「敵とはいえ民間人を攻撃するのはどうなんだ? 彼等は武器を持ってない。力なんて無いんだぞ? もっと他にやりようは無いのか?」
そうシセルが言った瞬間、ブラームの表情が死んだ。
「やりようね……随分と簡単に言ってくれるな」
「難しいのは分かるがそれでもやーー」
「他にやりようがあるって言うなら言ってみろ! 下手すれば1万以下の兵力しかない俺達が敵の事まで配慮しながら国を取り戻す方法があるって言うんならな!!」
キレた。
ただただブラームは怒りをあらわにしてシセルを責めた。
その剣幕は思わずシセルが後ずさりする程の圧があった。
「いいか? 折角だから言っておこう。俺も、そして一緒に戦場で戦う仲間もフロリーナの立てたこの作戦には賛成してる。思い付く限りの非道な作戦をとらないと勝てないからだ。だから俺も仲間も笑いながら子供だろうが女だろうが老人だろうが聖者だろうが敵国の人間ならなにからなにまでぶち殺してぶっ壊して回ってやる」
「ブラーム……」
「俺達にはその覚悟がある! だがお前はどうだ? その覚悟がお前にはあるか!?」
ブラームの言葉にシセルは黙り込む。
答えられなかった。
敵の兵士を殺すことすら罪悪感を覚えて反吐を吐くようなシセルには反論など到底できない。
「やりようなんて言葉を俺達に使うな。それは力が十分にある奴らが吐ける言葉だ。今の俺達にはそんな言葉はクソの役にも立たん」
「…………」
「分かったらさっさと帰るぞ。歩けシセル」
「ああ……」
それから二人は必要な最低限の言葉だけ交わしながら、メラント島へと帰っていった。




