第38話
地下からシセルとブラームが這い出てみると、そこは天井が崩壊した教会跡と思われる場所だった。
おそらくは元々村の住人が使っていたのだろうそこは、現在はズウォレス軍の隠れ家として使われているというわけだ。
「改めてよろしく、俺はラルス。今現在旧ズウォレス領に残った兵士の元締めだ」
「よろしく。俺はシセルだ」
教会跡にはラルスと名乗る赤毛の青年の他に10数名の兵士と思われる人間がいたが彼らは見知らぬシセルの登場に困惑しているようだった。
全員が崩れかけた壁に背中を預けて座りながらぶつぶつと内緒話をしている。
ーーこの表情から察するに本来ブラームだけで来る予定だったんだろうな。
「アンタは何者なんだ? ここに来るのはブラーム一人だと聞いていたが」
「そいつはかの有名な『ズウォレスの黒狐』だ」
ブラームの言葉に、その場にいる兵士達全員が色めき立つ。
「あの伝説の弓兵様なのか!? その女みたいな髪の毛の男が!?」
「ブラーム、冗談はよせよ。こんな男があの『ズウォレスの黒狐』なわけがないだろう」
「いや、わざわざフロリーナ様が送り込んできたんだろ? 本物なんじゃないのか?」
このように兵士たちの反応は様々であったが、ほとんどがシセルの異名を疑っている人間ばかり。
失礼な言い方をされているのもあって少々シセルもイラついてきたので……
「まあ確かに『ズウォレスの黒狐』の異名は俺のものじゃないが、弓の実力はそれなりにあるぞ」
見栄を張ってみた。
「その実力は戦場でぜひ見せていただこう。それでブラーム、俺たちの悪魔は何て言ってるんだ?」
シセルの言葉を軽く流した後、今度はブラームの方へと向き直るラルス。
正直シセルは不満だったがいつまでたっても話が進まない予感がしたため黙っておいた。
「予定通り仲間に指示を送ってくれ。『牧羊犬』になるぞ」
「了解した、待ってたぜこの時をな! おいお前等各地に指令を送れ! ベルトムントの糞野郎どもに地獄をみせてやるんだ!」
『牧羊犬』……その言葉を聞いてラルスの表情が変わった、好戦的で獰猛な狼のような闘志の宿る瞳をしている。
「本格的な作戦の実行は恐らく1週間後だ。俺たちは今日の夜には移動する。フロリーナにはよろしく伝えてくれ」
「ああ分かった。よろしく言っておく」
話が終わった後、ラルスたちは一斉に動き出した。
武器を手に取り、使い込まれた古い革鎧を身に着け、荷を背負う。
「なあブラーム、『牧羊犬』ってのはどんな作戦だ? 何をする?」
シセルの言葉に、ブラームは嬉しそうに答えた。
「簡単だ。西から東に向かって片っ端から都市やら村やらを襲うのさ。そうして難民をベルトムント側にけしかけてやる」




