第37話
「よぉよく来たな。まぁこんな状態だけど飲んでけよ」
村に入ったシセルとブラーム、二人はまっすぐ一軒の酒場へと入っていった。
中の状態はというと客は誰もおらず、埃の積もった木造の建物に年老いた髭もじゃの店主だけがのんびり椅子に腰かけていた。
「他の村人は出ていくみたいだけど、アンタはそうしないのか?」
注文をとろうともしない老いた店主にブラームが話しかけた。
「俺はここで骨を埋めるよ。ここが俺の故郷だからな」
「そうか……ああそうだ折角だから酒を頼もうか。かぎりなく黒に近い色のビールをくれ」
「……金は?」
「銀貨4枚、ああおつりは要らないぞ」
店主とブラームの間でやり取りを聞いていたシセルはこう考えた。
ーーたかがビールに銀貨4枚も出すわけがない。となるとこれは合言葉か。こいつがズウォレス軍の仲間なわけだな。
その後もいくつかやり取りをした後、店主は床の板を上げてシセルとブラームに向けて手招きをし始めた。
ーーなるほど『そこ』か。
店主に導かれるまま、二人は床下へと入って行った。
「ぺっぺ……掃除くらいしとけよ」
もう隠す必要もなくなったブラームが素でしゃべりだした。
そしてブラームの言う通りとても床下の通路はとても汚いうえに蜘蛛の巣がいくつも張り巡らされている。
そんな場所に小さな獣脂を燃やして使う灯りを頼りに四つん這いになりながら進んでいく。
「すまん面倒でな。それに俺自身もうかつに地下に入れないもんでな」
店主も素でしゃべりだしたが……思いのほか若い声をしている。
ひょっとすると老人の見た目も変装なのだろうか?
「俺ももう喋っていいか?」
「ああいいぞシセル」
ずっと黙っているのも苦痛で仕方なかったシセルが口を開いた。
「ところでその髪の長い兄ちゃんは何者だブラーム?」
「こいつはシセル。聞いて驚け、あの『ズウォレスの黒狐』だ」
「ほうあの高名な弓兵殿か? なるほどだからあの悪魔がお前と一緒に寄こしたのか。合点がいったよ」
ーー悪魔……か。
やはりフロリーナはそう呼ばれているのか、シセルはそう思った。
「それでどこまで行けばいいんだ? いい加減這うのも飽きてきたぞ」
「ああ安心してくれ。もう終わりだ」
「うん?」
今の安心してくれという声、心なしか上……地上の方から聞こえたような……
シセルがそんなことを考えるのとほぼ同時、上から光が差し込んだ。
天井部分が板になっていて、それを誰かが外したようだった。
「ようブラーム。随分と遅かったじゃないか。お? お連れさんもいるのか」
「久しぶりだラルス。またよろしくな」
板を外してくれたのは赤毛が特徴的な青年。
人懐っこそうな笑みを浮かべながら、彼はシセル達に手を差し伸べた。




