第36話
シセル達がホルウェ港上陸2日経過後、旧ズウォレス領北部ドック村周辺にて……
「着いたぞ、あそこが俺達の仲間がいる村だ」
「あそこか……」
真っ昼間に村の周囲の茂みから、様子を伺うシセルとブラーム。
ズウォレス軍の仲間がいるというその村はいまだベルトムント人達が闊歩していた。
とはいっても彼らの多くは荷造りをしていて、ここから去る準備を進めているようだったが……
「さてどうやって行くよブラーム? 規模もそんなに大きい訳じゃない村だ。そのまま行けば怪しまれるぞ」
「こいつを使う」
「これは……」
ブラームはいつの間にか荷袋の中から竪琴を取り出した。
正直ブラームが何をしたいのか一切シセルは分からなかったが。
「なにする気だ?」
「俺は今からベルトムント人の吟遊詩人、カールだ。そしてお前は同じくベルトムント人で俺の弟子、ケルツ」
「は? まさか芝居するのか?」
そうだと頷くブラーム。
正直シセルには役者の才能など欠片も無いのだが。
「まぁシセルは黙ってろ。お前は火事で喉をやられてまともに声を出せないって設定で行くぞ」
「はあ……大丈夫なんだろうな……?」
「あんた見ない顔だな、何者だ?」
村に入ってすぐ、ブラームとシセルは村の男に声をかけられた。
この男だけではなく、他の村人も明らかにシセル達を見て警戒しているのがわかる。
「俺は吟遊詩人さ。詩歌を歌って回ってるんだが一体どうしたんだ? 随分と大荷物を下げてるようだが……」
「ズウォレス人の糞野郎共に攻撃された。ここもいつ攻撃されるか分かったもんじゃないからな。逃げるのさ」
いぶかしみながらも、村の男は教えてくれた。
「でアンタ名前は? アンタが吟遊詩人ならそっちの女みたいに髪の長い陰気臭い男は?」
ーー殺してやろうかこのおっさん。
目の前の男に殺意を覚えたが今のシセルとブラームにまともな武器はない、なんとか抑えることにした。
武器はみんな茂みに隠してきており、今頼れるのは袖の下に隠した短剣のみ。
これではお話にならない。
「俺はカール、そしてこっちが見習いのケルツだ。こいつは火事で喉をやられててな。まともに喋れないんだ。歌は期待するなよ」
「……武器は持ってないだろうな? その背中の大荷物を見せてもらおうか」
「ああいいぞ」
武器はおろかズウォレス軍に関するものは全て置いてきた。
荷物検査でバレることはまずないだろう。
「……服の下は?」
「おいおい、男の裸を見たいのか? あんたも物好きだな。だがまあ見たいというなら……」
ここでシセルは数歩ブラームから離れた。
何故か?
ブラームはズボンを下げ胸元を開けながらやたらと良い声で熱っぽく男に迫ったからだ。
その姿たるや男娼もかくやという有様である。
「いやいい。いいから! やめろ俺に近寄るな! 来るな! 寄るな!!」
男はその場から去った。




