第34話
「おおう……これはこれは」
「分かっちゃいたが酷いもんだな」
ホルウェ港へとたどり着いたシセルとブラーム。
小舟を適当な場所に隠し、弓を手に持ち腕に着けていたズウォレスの旗を外した。
そして背中に背負えるだけの荷物を背負い、出発する二人。
廃墟が立ち並ぶ中に人も何人かいるものの皆殆ど二人を気にする様子はない。
生気のない虚ろな瞳で空を見上げるばかりである。
「ざまぁ見やがれベルトムント人が」
吐き捨てるようにそう言ったブラームの目はまるでごみを見るようで、とても味方に向けていた優しさにあふれた人間と同一人物とは思えない。
「とっとと行こう。面倒ごとは御免だ」
このままブラームを放っておくとほとんど難民と化したベルトムント人に斬りかかる気がしたシセルはそう言って先を目指した。
ホルウェ港付近、地下水道跡にて。
「今日のねぐらはここだシセル。飯を食おう」
「そうするか」
地下水道の入り口付近で背中に背負った荷と弓を湿った地面に置いた二人。
飯、飯とぶつぶつ言いながら月明かりを頼りに荷袋の中を漁っていたブラームが突然顔をしかめた。
「なんだこれ? 飯……なのか?」
ブラームが荷から取り出したのは人の頭程の大きさをした麻袋。
袋の外側には大きく黒い塗料で『食糧』と書かれているが……
「普通に見えるが? それがどうしたんだブラーム」
「いや、やたらと軽いぞ……フロリーナ何を入れたんだ?」
中身を出すと松明に照らされて出てきたのは何やら長方形の茶色い塊。
「これはシセル、お前が考案した物じゃないのか?」
「あー……」
シセルが考案して食糧担当に注文した携行食糧だ。
見た目は想像と少し違うがそれ以外に考えられない。
「まぁ、四の五の言う前に食べよう。とりあえず量はあるが2枚ずつ食うか」
「ああ」
受け取ってみると固まったバターで不快なぬめりがある。
そして肝心なお味は……
「……美味くも無く、かといって吐くほど不味くも無く、それなりとも言い難い」
「だな。だがまあ火を使わなくていいのはいい点だ」
ぼそぼその肉に乾燥した香草、それと固まったバターが不快な食感だがそれほど不味くはない。
塩味が薄い為そのまま食べられるのも良い。
「まあ腹を満たすにはいいな。あと軽い」
「かさばらないのはいいところだ」
むりやりいい点を捻り出し微妙な食事を終えた二人。
脂ぎった手を地面になすりつけ二人は話に戻った。
「微妙な飯を食い終えたところでお話だ。フロリーナについて」
「まってました」
休息ついでにブラームはフロリーナの話を始めた。




